大山阿夫利神社の境内からは、相模の海を一望することができる。
道幅は広いとはいえない大山道。そのため、鳥居が立つ手前で左手にバイパスが整備されたが、生け垣のある昔ながらの家並み、個人の名や会社の名を刻んだ玉垣など、かつて賑わった大山講の名残を目にしながら走る旧道は楽しい。とりわけ、鈴川に架かる愛宕橋付近には清楚な愛宕滝をはじめ、宿坊の面影を残す宿、名物の豆腐料理の店などがあって風情ある佇まいだ。
その昔、大山詣をする人たちが喉の渇きを癒すため、豆腐を手にのせすすりながら上ったということから、今では豆腐がすっかり大山の名物料理となった。
1軒1軒工夫を凝らした豆腐料理があるが、創業400年以上という老舗、東学坊で昼食に豆腐料理を味わう。通された「しょうぶの部屋」は、障子を開ければ足下に鈴川が流れ静か、ドライブの疲れが吹き飛ぶ自然の空間だ。
テーブルには、大女将が毎日詠むという新春らしい直筆自作の「若水越汲みて淑気の釜はじめ」の句が料理を一層盛り立てる。熱い抹茶と梅豆腐でのどを潤した後、豆腐を使った懐石料理が次々に運ばれてくる。まるで生クリームを飲んでいるような豆乳、淡白な豆腐や濃厚な味わいの豆腐の味噌漬けを湯葉で包んだ天ぷら、そのままでも甘く軟らかな丸い形の湯豆腐、そして、クリーミーだがさっぱりしている豆腐のグラタン等々。
御飯から水菓子まで食べ終えると、お腹が一杯。「お豆腐はヘルシーですから大丈夫よ。食後は露天風呂に入ってゆっくりしてください」と、女将の相原美智子さんは微笑んだ。

こま参道にある「大津屋きゃらぶき本舗」。人気はきゃらぶき、数種が入った「大山詣り」。
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ひと休みして、3分ほど走った第2駐車場にクルマを入れる。ここから大山阿夫利神社下社へ向かう大山ケーブルカーの追分駅までは、石段の参道を歩かねばならない。
高鳴る胸の音に日頃の運動不足をひしひしと感じながら、大山こま、手焼きせんべい、きゃらぶきなどを売る土産店が軒を連ねる参道を上る。石段の踊り場には『大山こま』がデザインされたタイルがあり、階段数を表している。
「あと半分、頑張って」と途中お土産を買おうと立ち寄った大津屋きゃらぶき本舗の店主・染谷敏子さんにハッパをかけられた。雲井橋を渡ると追分駅に到着。こまの数は27。石段は363段あった。
下社駅に降り立つ。クルマで来ることができる気軽さの中にも、参詣する時には歩かねばならないところにご利益を求めるのかもしれない。正月には晴着姿の初詣客などでさぞや華やかな賑わいを見せることだろう。
社殿で手を合わせると清々しい気持になった。境内からは厚木の町を眼下に、横浜、相模湾、はるか伊豆大島が望めた。ふと、「悠久4000年、心のよりどころ初詣は関東総鎮護の大山阿夫利神社へ」と語った、権宮司原田知道さんの言葉が浮かんだ。
帰路、夕映えに染まる相模川河川敷にインプレッサを止めた。円錐状の頂をツンと立てた大山は、薄紫色の山肌を大きく浮かび上がらせていた。