名高き冬の八甲田、
猛吹雪が描くモノクロの世界。
人を拒絶するような自然の中で、
私は雪景色の本当の美しさを知った。

レヴォーグで旅する青森県の旅

2022.02.22 | #11 Aomori Touring /Day1:DRIVE「萱野高原・八甲田山・城ヶ倉大橋」

青森市内の道路は、雪に覆われていた。
除雪車が除けた雪は道端で高い壁となり、車線をひとつ塞いでしまっている。必然、車同士は際どい間隔ですれ違う。いつも以上に集中してハンドルを握る。スタッドレスタイヤが雪を噛む感覚は頼もしいが、慢心はいけない。
青森市内に背を向け八甲田山に近づくと、交通量は目に見えて減った。いや、無くなったというべきか。市街を離れて1時間ほど。酸ヶ湯温泉行きのバスを見かけたほかは、追い抜く車も、すれ違う車もいない。雪はなお深くなる。道路脇の雪壁はすでに2mを越えていた。
「リアが流れたら、ブレーキじゃなくアクセル。忘れちゃだめだよ」。
地元のドライバーが教えてくれた教訓を胸に車を走らせる。ナビは車が萱野高原に差しか掛かったことを示しているが、雪に塞がれる視界は高原を認識できない。高原の名物茶屋も半ばまで雪に埋もれて休業中だ。だが少しずつ、私はこの雪道が愉しくなってきた。
「どんなことにも慣れるものなのだな」。
景色に目を向ける余裕さえ生まれた。私は時折、雪の山々に目を向けながら冬の八甲田を進む。
青森県 萱野高原かやの茶屋前を走るレヴォーグ(クリスタルホワイトパール) | SUBARU グランドツーリングNIPPON
私も誤解していたのだが、八甲田山という単独峰があるわけではない。大岳を主峰とする18の山々の総称が八甲田山だ。道はその八甲田の山々をぐるりと巡るように繋がっている。つまり走るごとに、見える景色、見える山が変わってくるのだ。
分かれ道を左へ折れる。県道40号、青森市と十和田市を結ぶ道だ。開けた視界、雪の合間に先程までは見えなかった雛岳が見える。長く続く直線道路は、爽快感がある。だがこの先、十和田ではなく酸ヶ湯方面に戻る道は冬期閉鎖中だという。来た道を戻り、逆周りで再び酸ヶ湯方面へ。
青森県 県道40号を走るレヴォーグ(クリスタルホワイトパール) | SUBARU グランドツーリングNIPPON
青森県 八甲田山の雪景色 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
青森県 県道40号の雪壁の間を走るレヴォーグ(クリスタルホワイトパール) | SUBARU グランドツーリングNIPPON
山道も高原の道も、もれなく雪道だ。一面の雪と、木々の幹の黒。色彩のない世界。この美しいモノクロームの中を、ただ一台で走る。胸に押し寄せるのは孤独ではなく、自由だった。ただ大自然の中をひたすらに走る。私は鳥になったような気分で、この自由を謳歌する。まもなく目指す城ヶ倉大橋だ。
城ヶ倉大橋は、八甲田の山中にかかる全長360mの橋。アーチ上部に桁がある上路式アーチ橋としては日本一の長さを誇る。冬期でも通行止めにはならない。ならば、と思い足を伸ばしてみた。
「橋の上の路面は凍結するから、急ハンドルは駄目だよ」。
先の地元ドライバーはそう教えてくれた。地熱が伝わらない橋の上は、通常の道路よりも滑りやすい。やってきた城ヶ倉大橋は、ハンドルを動かす必要はないほど直線だった。視界の先、雪に遮られ見えなくなるまで続く直線の橋。目を少し横に動かすと、雪の八甲田連峰が目に飛び込んできた。
青森県 雪で覆われた城ヶ倉大橋を走るレヴォーグ(クリスタルホワイトパール) | SUBARU グランドツーリングNIPPON
圧巻だった。橋上に停車はできない。両端に駐車場はあるが、橋の歩行者道は雪に埋もれ通行止めだ。だからこの景色は、運転している間、横目でしか見ることができない。ゆっくりと車を走らせても、1分とかからず橋は終わった。
しかしその橋から見た景色は、強く私の目に焼き付いた。それほどまでにその景色は印象的だった。強風の橋上、下には深い谷。いくらかの恐怖心がなかったわけではない。だがそれ以上に、開放感があった。吹雪に遮られたパノラマは白と黒の2色でありながら、立体的で、力強く、そして美しい。冬の八甲田に向かう前は、迷いも不安もあった。だが難関を乗り越えてあの景色を独占できた私は、「来てよかった」と断言できる。モノクロームの濃淡が描く、壮絶なまでの美しさは、冬だけの景色なのだから。
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