静止画に見えた真冬の八甲田で、
肌で感じる小さな生命の息吹。
生きることは素晴らしい。
照れることもなく私は呟いた。

2022.02.25 | #13 Aomori Touring /Day3:EXPERIENCE「また旅くらぶ・酸ヶ湯温泉」
一説によると、冬の八甲田の晴天率は3%だという。月に1日晴れるかどうか。つまり冬期の八甲田は、ほぼ常に雪だ。
青森市内を抜けて八甲田へ向かう道。
この日も空は、重い雲に包まれていた。進むにつれて雪は深くなる。道と山肌、空と稜線、すべての基準が曖昧になる。これ以上、雪と風が強まればホワイトアウトし、進むのは危険になる。私は祈るような気持ちで、慎重に車を走らせた。
緊張しながらなんとか到着した、八甲田山中の一軒宿「酸ヶ湯温泉旅館」。ここに本日の目的地、また旅くらぶが実施する「スノーシュー体験」がある。厳冬期の八甲田をスノーシューで歩く。観光ではなく体験を好む私にとって、これ以上ないアクティビティだ。
映画『八甲田山』のインパクトは強い。映画自体はフィクションだが、もとになった八甲田山雪中行軍遭難事故は史実だ。屈強な軍人に牙を向く大自然の猛威。あの映画を見たときから、私の中での八甲田山のイメージは、猛烈な吹雪に包まれる秘境だった。
青森県 酸ヶ湯温泉旅館沿いを走るレヴォーグ(クリスタルホワイトパール) | SUBARU グランドツーリングNIPPON
青森県 地獄沼沿いを走るレヴォーグ(クリスタルホワイトパール) | SUBARU グランドツーリングNIPPON
青森県 酸ヶ湯高田線の冬季閉鎖を知らせる標識 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
だが到着した「酸ヶ湯温泉」はイメージとは違った。秘境ではあるが、歴史ある湯治場としての重厚な佇まいで、来場者を迎える。屋根の湯気抜きからはもうもうと湯気が上がっている。内部は古いが清潔で整備も行き届いている。長い間、人に愛され利用され続ける施設特有の活気がある。「また旅くらぶ」の小野豊氏と落ち合い、スノーシューを装着し、注意事項の説明を受ける。
「あとは歩きながら覚えましょう。大丈夫、愉しいですよ」。
穏やかな小野氏の言葉に、心が救われる。たしかにここまで来たら、あとは愉しむだけだ。
青森県 「また旅くらぶ」小野氏 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
青森県 「また旅くらぶ」のスキーポール | SUBARU グランドツーリングNIPPON
青森県 「また旅くらぶ」のスノーシュー | SUBARU グランドツーリングNIPPON
外に出ると、晴れ間がのぞいていた。3%の確率で引き当てた晴天。一面の雪景色が反射板となり、まぶしいほどの光に包まれる。雪景色とは違う、晴れやかな異世界。
小野氏の案内のもと、八甲田の山中へ歩き出す。
一面の銀世界を、一歩一歩、踏みしめながら進む。雪を踏む感触、一歩ごとに舞い上がるパウダースノー、目に映るすべてが初めての体験だ。
ただ驚くばかりだった未知の世界に、小野氏の話が輪郭を形作ってくれる。この付近は笹薮の上に3m〜5mの雪が積もっていること。ダケカンバの樹は酸に強く、源泉近くでも力強く育つこと。ブナの芽はこの寒さの中ですでに膨らみはじめ、春に向けての準備を着々と進めていること。
話を聞くごとに、雪一色だった景色に彩りが加わっていく。ただ静止しているだけに見えていた世界に、生命の息吹が感じられる。雪の上にカモシカの足跡が続いていた。自然は生きている。そんな当たり前の事実に気づく。
写真で見れば文字通り“静止画”だ。だがその中に身を置けば、景色が呼吸し、声を発し、生きていることに気づく。そしてそこに立つ自分自身の生命も、呼吸し、鼓動を刻み、汗をかき生きている。自然の発する小さな生命のサインに耳を傾けたからこそ、自分自身の生命にも意識が向いたのだろう。
青森県 八甲田山中のダケカンバの樹 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
青森県 八甲田山中のダケカンバの樹を案内する「また旅くらぶ」小野氏 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
青森県 八甲田山中のダケカンバの樹 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
青森県 八甲田山中を案内する「また旅くらぶ」小野氏 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
一時間ほどで酸ヶ湯に戻る。ふと小野氏が足を止める。
「お参りしていきましょう。これからの旅が無事であるように」。
そう笑う小野氏の視線の先。地に落ちた丸太だと思っていたそれは、鳥居の笹木だった。私も小野氏に倣い、手を合わせる。上から見下ろしてしまう無礼は、この地の神様ならば大目に見てくれるだろう。
青森県 八甲田山中の雪に覆われた鳥居の笹木 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
私のささやかな雪中行軍は、大きな収穫とともに幕を閉じた。運動により体は上気しているが、手足は冷え切っている。やはりここまで来たら、名湯と名高い酸ヶ湯温泉に浸かっていくべきだろう。
噂の千人風呂は湯気に包まれ、吹雪と変わらぬような視界だった。湯に体を鎮めると、痺れに似た感覚を伴いながら手足がじわりとほぐれていく。心の底から、長い吐息が漏れる。
「生きることは素晴らしい」。
そんなハイテンションな人生讃歌が浮かぶ。
そう、私は浮かれていた。この短時間で得られた素晴らしい体験に。その体験を通して得られた新たな思いに。帰路の山道への心配は吹き飛んでいた。
雪がただ恐ろしいものではなく、その懐に多くの生命を守る大いなる自然であることを、私はもう知っていたから。

DATA

また旅くらぶ
住所:青森県青森市桜川3-12-8
電話:017-752-6705   
URL:https://matatabi-club.com/
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