人を思い、故郷を思い、未来を想う。
心のこもった3種の食材を前に、
私はこの地の食の豊かさを知った。

2022.02.28 | #16 Aomori Touring /Day6:EAT「パン屋といとい・おおわに自然村 生ハム工房・弘前シードル工房kimori」
雪に包まれた『つがる地球村』で本物のゲルに宿泊する。
そんな旅のメインイベントに向かう道中、私は食材を買うために何軒かの店に立ち寄った。ゲルの中では火を使った調理ができないため、すぐに口にできるものが良い。この地ならではこだわりのこもった品が良い。そんなテーマだけで選んだ3軒。だが振り返ってみると、さらに共通のテーマが潜んでいた。
まずは弘前市内にある『パン屋といとい』に向かった。週に1〜2日だけ不定期で開くパン屋。この日は幸いにもオープン日だった。3〜4人も入ればいっぱいになりそうな小さな店。そこで店主の成田志乃氏が出迎えてくれた。
ケースの中のパンは半分以上が売り切れてしまっていた。だが残り少ないパンからも、たまらない香りが立ち上っている。この小麦色の美しい焼き目をみるだけで、成田氏がどれほど真摯にパンと向き合っているか伝わってくるようだ。
少ない営業日のほかは、何も休んでいるわけではない。パンのアイデアを練り、仕込み、焼き、販売する。店を開いて売るという行為は、成田氏のサイクルのなかの一工程に過ぎないのだろう。パンには自家培養の野生酵母、国産小麦、有機栽培の穀物などを使用するが、ことさらにそれを押し出すわけではない。
「体の健康は大前提。心の健康の助けになりたい」
そう笑う成田氏。パンの香ばしい匂いは、いわば幸せの匂いだ。パンを通して幸せを届ける。そんな大きな夢も、この素敵なパン屋の中では現実味を帯びている。
青森県 「パン屋といとい」のパン | SUBARU グランドツーリングNIPPON
青森県 「パン屋といとい」とレヴォーグ(クリスタルホワイトパール) | SUBARU グランドツーリングNIPPON
青森県 「パン屋といとい」の店主 成田志乃さん | SUBARU グランドツーリングNIPPON
青森県 「パン屋といとい」内観と店主 成田志乃さん | SUBARU グランドツーリングNIPPON
続いて弘前から南下し、『おおわに自然村 生ハム工房』に向かう。通常、こちらの商品は道の駅などで購入できるが、予約をすればこの工房の見学と現地での直売が可能と聞き、迷わず向かうことを選んだ。
昔ながらの里山の景色が残る大鰐町を抜け、廃校になった小学校を舞台にした工房へ。引き戸を開くと、懐かしい小学校の空気が押し寄せた。生ハム作りを教える生ハム塾も主催する三浦浩社長は、文字通り先生だった。三浦氏に案内されて校内を歩き、この工房の成り立ちを伺う。
聞けば三浦氏は、もとはリサイクル業者だったという。そして目の当たりにした食材廃棄の実態。その無駄をなくすため、養豚の飼料にすることを思い立った。しかし世の養豚場は、すでに飼料の仕入先が決まっている。ならば自分で豚を育てよう、と『おおわに自然村』を作り、養豚をスタート。しかし育てはしたものの、今度は精肉のルートも新規が入り込む余地がない。ならば自社で加工して販売までしよう。ロスが出ないよう保存のできる生ハムも作ろう。すると偶然、廃校になる学校があると聞き、生ハムの工房を作り生産量を増やした。そんな流れで現在に至るのだという。
つまりすべての元は、廃棄食材のリサイクルから。SDGsが話題となる以前から、まるで無意識に実践に移していたのだ。
「小さい頃、当たり前にいたメダカやタナゴがいなくなっている。自然が少しずつ変わってきているんですね。それを止めるためには、誰かが動かなくてはいけない」
三浦氏の話は理路整然として、すんなりと脳に染み込んでくる。自然のため、故郷のため、未来のため。そんな理念を経営に落とし込み、正しく循環させる。しかし元金融マンである三浦氏は、綺麗事だけでもいけないことを知っている。
「理念ばかりがあっても、続かなければ意味がない。正しく利益を得ることも、大切なことです。そしてそのためには良い商品でなくてはなりません」
たしかにここの生ハムは、上質だった。脂がすっきりと口に溶け、噛むごとに旨味が溢れる。三浦氏の想いを知れば、そのおいさしさもひとしおだった。
青森県 「おおわに自然村 生ハム工房」の生ハム | SUBARU グランドツーリングNIPPON
青森県 「おおわに自然村 生ハム工房」三浦氏と生ハム工房の後継者でもあるご子息 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
青森県 弘前市内の雪道を走るレヴォーグ(クリスタルホワイトパール) | SUBARU グランドツーリングNIPPON
最後は弘前市内に戻り、『弘前シードル工房kimori』を訪ねた。
代表の高橋哲史氏に教えを請い、この地のシードルについて伺った。この工房は複数のリンゴ農家が集まって運営されているという。きっかけは平成20年だった。その年、異例の雹が降り、リンゴが軒並み駄目になってしまった。一年間丹精込めて育ててきたリンゴを、穴を掘って捨てるしかなかった。同じ思いを繰り返さぬよう、何か手を打つ必要があった。悩んだ結果、シードルに着手した。
「弘前はやっぱり、リンゴを中心に回っているんです。だから普通の人は、この先もこのまま続くと思っている。しかし弘前市内6,000軒のリンゴ農家のうち、跡継ぎがいるのはわずか2割。今、何かをしないといけないんです」
高橋氏の言葉は熱意に満ちている。リンゴの薀蓄も興味深く、時間を忘れて話に引き込まれる。
「実は弘前は、リンゴ栽培に適した土地ではありません」
ふと高橋氏がそう話した。これほど盛んに行われているのに、適地ではないというのは意外だった。
「気候のハンデを、技術でカバーしている。リンゴは剪定で味が7割決まります。そこを築き上げてきた先人たちがいかにすごかったか」
枝ぶりや日当たりを考慮し、どの実に栄養を集めるか決めてから剪定をする。それは人の技で味をコントロールすること。一朝一夕の技術ではない。挑戦と失敗を繰り返し、先人たちが積み重ねてきた努力の結晶だ。
高橋氏はそう話してから、壁に掛けられた写真に目を向ける。そのモノクロ写真は、この地でリンゴ栽培に尽力してきた偉人たちのポートレートだ。そんな溢れるリンゴ愛。ここで作られるシードルも、きっと素材を裏切ることのない、真っ直ぐな酒なのだろう。ここで試飲はできないが、夜の楽しみにしよう。
手に入れた食材を持って、『つがる地球村』に向かう。パンと生ハムとシードル。共通点のない3つだが、すべてに人と土地の未来を願う強い想いがこもっていた。。食べる人の体の健康はもとより、心の健康までに願いを馳せながら日々仕事と向き合うパン屋、お題目ではない循環型畜産で身近な自然を守り続ける生ハム工房、リンゴ農家の夢を集めて地域の未来を想い描くシードル工房。その想いを裏切らぬよう、せめてじっくりと噛み締めよう。幸い雪のキャンプ場は、時間と静寂だけは十分にあるのだから。
青森県 「弘前シードル工房kimori」シードル各種 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
青森県 「弘前シードル工房kimori」に飾られた先人たちのポートレート | SUBARU グランドツーリングNIPPON
青森県 「弘前シードル工房kimori」代表 高橋氏 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
青森県 「つがる地球村」ゲル内の食事 | SUBARU グランドツーリングNIPPON

DATA

パン屋といとい
住所:青森県弘前市城東中央4-13-10
電話:0172-80-9276   
URL:https://www.instagram.com/panya_toitoi/
おおわに自然村 生ハム工房
住所:青森県南津軽郡大鰐町早瀬野小金沢48-2
電話:0172-26-8692   
URL:http://namahamukoubou.owani-s.com/
弘前シードル工房 kimori
住所:青森県弘前市清水富田寺沢125 りんご公園内
電話:0172-88-8936   
URL:http://kimori-cidre.com/
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3軒の店で得た実体験により、私の印象は確信に変わった。

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