作るのは美術品ではなく、道具。
土と向き合い、語り合うように唐津焼を作る
ひとりの陶芸家の物語。

2022.03.22 | #24 Saga Touring /Day5:EXPERIENCE「唐津焼 健太郎窯」
西日本では陶磁器全般を指して「唐津物」と呼ぶ。それは唐津という地の焼き物の歴史と規模の証明だ。桃山時代にまで遡る起源、時代とともに発展してきた多様性、素朴で力強く、土の魅力が伝わるシンプルな美しさ。唐津焼は名実ともに日本を代表する陶器であり、現在でも唐津市内には70軒ほどの窯元があるという。私は事前にリサーチして、その中の一軒を訪問先に決めた。その窯の名は『健太郎窯』といった。
市街地から少し外れた鏡山の中腹に『健太郎窯』はある。鏡山は標高283メートルの、唐津のシンボル。窯に向かう道は曲がりくねった山道で、急なカーブが連続している。木々の切れ間に時折、町並みを見下ろせた。いかにも頑固な陶芸家が寡黙に土と向き合っていそうなロケーションだ。
佐賀県 「鏡山」の山道を走るレヴォーグ(アイスシルバーメタリック) | SUBARU グランドツーリングNIPPON
この窯を選んだ私の直感は正しかった。『健太郎窯』を訪ね、村山健太郎氏と出会ったこと、村山氏の哲学を伺い、土との向き合い方を知り、その作品を目にしたことで、私の焼き物へ向ける目は大きく変わった。それは今後の旅にも必ず役立つ、私の財産だ。
出迎えてくれた村山氏は、石を入れた臼の前にいた。聞けば村山氏は、自らの手で石を掘り、それをハンマーで砕いで粘土を作り、それから焼き物を作るという。
「粘土から自分で作るのは一般的なのですか?」
「今は手掘りの石で粘土作りからやる人は全国でも少ないと思います」。
私の疑問に村山氏は答える。
粘土は石を砕いて水にさらし、それをハンモックに干して水分を抜いてようやく完成する。それだけではない。陶器の表面に塗るガラス性のうわぐすりは、冬の間に薪ストーブで燃やした薪の灰から手作り。一から十まで、すべて自らの手で行う。それでは実際に焼き物を作る時間が減ってしまうのでは、と心配になるが、村山氏にとっては、粘土作りも釉薬作りも、すでに製作の一部なのだ。
かつては輸送技術の問題で、土が採れる場所でしか焼くことができなかった。各地にある焼き物の産地は、その場所で作られる意味が強かったのだ。
「できるだけこの地でしかできないことをしたい」。
そう話す村山氏が、自ら山で石を掘り、薪を切るのはごく自然なことなのだろう。 そしてそんな想いの帰結として、村山氏の焼き物はシンプルだ。原料の魅力を引き出すため、極力余計な装飾は省く。そのマインドが唐津焼の伝統と合致し、素朴で土の素材感があり、そして人の手のぬくもりを感じる器になるのだろう。
佐賀県 「健太郎窯」乾燥中の焼き物 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
さらに村山氏の話は、内面的な部分にも及ぶ。
「とくに焼き物において、日本ではアートとプロダクトの境界が曖昧です。しかし自分の中では、唐津焼は必ずプロダクトでなくてはいけないと思っています。たとえ使われていく中で美術品として取り上げられることがあろうと、作り手の意識は工芸であり、使われる道具でなくてはならない」。
終始穏やかな口調の村山氏が、このとき「必ず」「なくてはならない」という強い言葉を使ったのが印象的だった。それほどに村山氏の中でこのことは絶対的な指針なのだ。
佐賀県 「健太郎窯」ろくろで成形をする代表の村山健太郎氏 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
「受け継がれる伝統工芸という言葉への想いはいかがですか?」
私の問いに、また村山氏は明快に答えてくれる。
「伝統・工芸と分けて考えたとき、前者を縦軸、後者を横軸で考えてみます。伝統は過去から受け取り、未来に繋げていくもの。ここがものづくりの軸です。過去の技術であっても、しっかり考えて実践すれば現在でも通用することを証明したい」。
そこで一呼吸置いて、村山氏は続ける。
「一方で横軸は、現在生きている人。そういう方々と感覚を共有することがなければ器を使ってもらうことができません。だからこちらも同じく大切なこと。縦の伝統と横の工芸。これらをバランス良く揃えていかなくてはなりません」。
穏やかで、論理的で、ウィットに富んだ村山氏の話は、ずっと聞いていたくなるような心地よさがあった。そして私の問いに即座にこんな答えが出てくるということはきっと、日頃から常に自らの製作の意味を自問自答しているのだろうと思った。石を砕いているとき、粘土を練っているとき、ろくろを回しているとき。村山氏はずっと、深く自分自身に問いかけているのだろう。
佐賀県 「健太郎窯」ろくろを使った成形作業 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
佐賀県 「健太郎窯」成形が終わり器の形をした粘土 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
一通り製作風景を見せてもらったあと、ギャラリーに戻った。並ぶ作品は、やはりシンプルだ。窓の外、一望のもとに見渡す唐津湾の景色の中、その存在感は出過ぎでもなく、引きすぎでもなく。きっと料理を乗せたとき、長く使い込んだとき、村山氏の器はもっとも輝くのだろう。生活の中に溶け込み、その時間を少しだけ豊かにし、誰かの人生という物語を彩る。それは日常の中で使用することを前提に作られた“道具”として、正しい在り方なのだと思った。そしてそんな道具だからこそ、この器にもっと触れていたい、という思いが強く沸き起こったのだろう。
佐賀県 「健太郎窯」の器 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
佐賀県 「健太郎窯」の器と景色 | SUBARU グランドツーリングNIPPON

DATA

健太郎窯
住所:佐賀県唐津市浜玉町横田下1608-2
電話:0955-56-2358   
URL:https://www.kentarougama.online/
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