一杯のお茶のために旅をする。
その豊かで贅沢な時間は私に
新たな旅の愉しみ方を教えた。

レヴォーグで旅する佐賀県の旅

2022.03.25 | #26 Saga Touring /Day7:EXPERIENCE「Tea tourism」

嬉野茶の話は、聞いたことがある。
茶葉は独特の丸みを帯びた形状で、味は旨味と香りが強い。どこかの茶店で耳にしたのか、それともガイドブックかパンフレットで見かけたのか。記憶は定かではないが、嬉野茶の話は、“うれしの”という幸せな名前とともに私の心に残っていた。
その名の通り産地の中心は、佐賀県嬉野市だ。佐賀に行くならぜひ立ち寄りたい。そんな思いでリサーチをしていると、「Tea tourism」なる言葉が目に止まった。茶道におけるお茶会のようなものだろうか。 調べてみるとどうやらそうではないらしい。『嬉野茶時』という団体が主催するそのセレモニーは、お茶の生産者が白い衣装に身を包み、自らお茶を淹れて客をもてなす。その舞台は茶畑のなかに作られたオープンエアの茶室。説明を読み進めるごとに、興味が湧き上がってくる。すぐに体験を予約し、当日を待った。
佐賀県 「Tea tourism」で供される緑茶 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
指定された「茶塔」という場所は、嬉野市街から20分ほど離れた山中だった。ナビを頼りに山道を進む。嬉野市街は古き良き温泉街の趣だが、少し走るとすぐに人の気配が遠ざかる。その落差に期待感を高めながらいくつかのカーブを越え、坂道を登ると、突然景色が一面の茶畑に変わった。大げさではなく、視界すべてが茶畑だった。そしてそんな茶畑のなかに、目指す茶塔があった。一面緑の茶畑のなかに建てられた木製の高台。茶畑の中で異質な存在のようで、まるで最初からそこにあったかのように馴染んでもいる。きっとさまざまなことを考えた上で、この場所、この形が選ばれたのだろう。
佐賀県 「Tea tourism」茶畑を走るレヴォーグ | SUBARU グランドツーリングNIPPON
佐賀県 「Tea tourism」茶畑に建つ茶塔 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
今日の茶空間体験を担当するという『永尾豊裕園』の永尾裕也氏に促されて、茶塔に上がる。白い傘の下、座布団とお膳が準備されていた。オープンエアで生産者が淹れるお茶を愉しむ。その言葉からなんとなく想像していたよりも、ずっと上質なしつらえだった。そして永尾氏の挨拶とともに、セレモニーが幕を開ける。
一杯目は和紅茶だった。永尾氏が丹精込めて育てた茶葉を発酵させ、金木犀の香りを加えたものだという。渋み、苦味がないまろやかな味わいと、ふわりと広がる香りが印象的だった。合わせるお菓子も地元のパティスリーで作られたもので、粉末状にした永尾氏の茶葉が使われている。同じ土地から採れた茶葉同士、相性は抜群だ。
永尾氏の話はよどみない。この地の茶の歴史や生産者の想いを交えながら、セレモニーは続く。次なる緑茶は、永尾氏の前に5つ並んだ磁器で湯を適温まで冷まして、じっくりと抽出された。出汁のような旨味とやさしい甘みが広がる。抜群においしい。お茶とはこれほどにも深い味だったのか。
「フリースタイルのセレモニーですから」
と足を崩すように勧められた。リラックスした姿勢で、もうひと口、お茶を口に運ぶ。やはり抜群においしい。人生において、数え切れぬほど口にした日本茶。それをこれほどの感動を持って愉しめるとは。
もちろんこのおいしさには、この環境も重要な役割を果たしているのだろう。一面の茶畑を眺めながら、その地で採れたお茶を味わう。それはたとえば米農家が畑で握り飯を食べるような、漁師が船上で穫れたての魚を食べるような、限られた人にだけ許された贅沢に似ているのだろう。それはお茶を飲む、という一元的な行為ではなく、体全体で享受する豊かな体験だった。
佐賀県 「Tea tourism」茶塔で入れる緑茶 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
佐賀県 「Tea tourism」で供される緑茶 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
佐賀県 「Tea tourism」茶畑とレヴォーグ | SUBARU グランドツーリングNIPPON
ティーセレモニーはこの茶塔のほか、「天茶台」「杜の茶室」と名付けられた別の2箇所でも体験できるという。茶塔の体験に衝撃を受けた私は、「天茶台」も訪れてみた。
今回の担当は『きたの茶園』の北野秀一氏。先の永尾氏とはともに嬉野茶を盛り上げる仲間だが、生産者としてはライバルでもある。そんな切磋琢磨も、この地のお茶のレベルを底上げしているのだろう。
佐賀県 「天茶台」でお茶を入れる「きたの茶園」の北野秀一氏 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
セレモニーの内容は茶塔と同じで、1時間ほど時間をかけて3種のお茶と2種の菓子を愉しむもの。だが、ロケーションが大きく違った。一面がフラットな茶畑だった茶塔に対し、この天茶台は段になった茶畑の向こうに市街地を遠望した。遠くに望む町並みは興ざめになるどころか、かえってこの地の緑の濃さを際立てた。
無論、ここでも出されるのは、北野氏自身が育てたお茶。30年以上前、先代の頃から取り組んでいるという無農薬有機栽培のお茶は、浅炒りの焙じ茶でも、旨味の濃い緑茶でも、その澄んだおいしさが際立った。天茶台もまた、素晴らしい体験だった。
佐賀県 「天茶台」茶畑と茶塔で作業する「きたの茶園」の北野秀一氏 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
茶畑を前に、地元生産者の話を聞きながら、そのお茶を味わう。その臨場感や希少性と、身近なお茶を通すことでかえって浮き彫りになる非日常感。私はここお茶の奥深さとともに、旅の愉しさも再確認した。
特産を味わい、名所を訪れるだけが旅ではない。
一杯のお茶のために旅をする。そんな贅沢こそが、日本各地の魅力をいっそう深く伝えてくれる気がした。日本にはきっとまだ見ぬ旅の愉しみが無数に眠っているのだろう。私ははやくも、次の旅が待ち遠しい。
佐賀県 「天茶台」茶畑の側を走るレヴォーグ | SUBARU グランドツーリングNIPPON

DATA

Tea tourism
URL:https://www.tea-tourism.com/
永尾豊裕園
URL:https://nagaohoyuen.com/
きたの茶園
URL:https://kitanochaen.com/
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