スパイスの力を借りて地場産食材の魅力を引き出す。
カレーを通した土地の表現は、
私に新たな気付きを与えた。

2022.03.31 | #28 Saga Touring /Day9:EAT「カレーのアキンボ」
「カレー!?」
佐賀に住む知人に、地元ならではの味が愉しめるレストランを尋ねると、一軒のレストランを紹介された。その名は『カレーのアキンボ』。そこで私の口から率直に飛び出したのが、冒頭の言葉だ。 カレーが嫌いなのではない。だが“土地の味”と“カレー”のイメージがどうしても結びつかなかったのだ。
極端に言えば私は、スパイスとは“たとえ新鮮ではない食材でもおいしく食べるための手段”だと思っていた。かつて一粒の胡椒が黄金の価値を持ったのも、内陸部で香辛料の料理が発展したのも、この実用的な利用価値のためだろう。つまりスパイス料理の王道であるカレーとは、料理人の技術にのみ依存し、土地柄には関わりがないものだと思っていたのだ。
先に結論を言えば、私の思い込みは大きな誤解だった。
佐賀県 「カレーのアキンボ」の「野菜カレー」 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
電話で予約を入れた際に、大まかな場所を聞いておいた。店は市街地からは15分ほど離れた佐賀大和ICの近くにあるという。当日はナビに従って進む。市街地が背中に徐々に遠ざかっていった。僻地というほどではないが、町外れの落ち着いたエリアだった。
やがて地図は現地に到着したことを示したが、店らしきものは見当たらない。私は同じ道を何度も行き来し、しまいには店に電話をして場所を尋ねてしまった。電話口に出たスタッフは、道路まで迎えに出てくれるという。そして遠くから手を振る人影を頼りに、ようやく私は店にたどり着いた。
そこは看板も出ていない古民家だった。そして驚いたことに、川岸真人と名乗ったその店主は見知った顔だった。かつて東京にあった行列のできるカレー屋。人気絶頂の最中、突如閉店してしまった伝説の店。私が何度も訪れたそのカウンターの中で、黙々とカレーを作っていた人物その人だった。
佐賀県 「カレーのアキンボ」店主 川岸真人氏 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
不思議な巡り合わせの高揚感のなか、未体験の郷土カレーの晩餐が始まった。料理は全8品のコースだという。要予約で最大でも4名までという店内だが、この日、他に客はいないようだった。私が案内されたダイニングは、川岸氏が調理するキッチンの横。調理の合間を縫って、いろいろと話を伺うことができた。
「佐賀は故郷ですか?」
「そうです。東京でやっていた頃から、いつかは故郷に錦をと思っていました」
気兼ねなく交わされる会話。気のせいかもしれないが、東京の頃よりも穏やかな顔に見えた。
そして料理が届く。それは、予想を覆す味だった。ヤーコンと唐津のローゼルを鰹節と梅肉で和えた前菜。続く温菜は、芽キャベツと原木しいたけとカブのお椀。トマトとパクチーの出汁が利いている。パクチーの風味がなければ、割烹で登場しそうな穏やかな味だった。葉物の食感と適度な苦味に、焼いたミカンの酸味とスパイスを聞かせた菊芋をあわせたサラダ、スパイスに漬け込んで焼いた鶏もも肉に地元のチーズを合わせた肉料理。
次々と料理を味わううちに、私はスパイス料理への先入観を改めた。川岸氏のスパイスは、食材の欠点を隠すためではなく、魅力を引き出すために使われているのだ。そしてその期待に応える、力強い食材の味。
「食材は地元のものですか?」
「ほぼすべては地場産です。野菜は多久の畑に毎週通って採ってくるんですよ」
私は合点がいった。川岸氏の料理は、地元の素材を厳選し、その魅力を引き出すために少しのスパイスを借りたもの。それはインド料理の技術で表現された佐賀の郷土料理だ。
「畑に行ったり、港に行ったり、考えてみるといつも佐賀の食材を探しています。それはこの地の食材が、わざわざ予約してカレーを食べに来てくれるお客様を喜ばせてくれるから。それは私の中で揺るがない、佐賀の食材への信頼です」
川岸氏はそんな考えのもと、素材を活かす引き算のカレーを作る。料理はどれも軽やかだった。スパイスの適度な刺激が胃を刺激するのだろう、私は“食べすすめるごとに食欲が増す”という不思議な感覚を味わった。
佐賀県 「カレーのアキンボ」使用するスパイス | SUBARU グランドツーリングNIPPON
そして次なる料理は、ひと皿のカレー。
「これだけは東京の頃のままのレシピです」
それは東京で行列に並んでまで食べた懐かしい味だった。懐かしく、抜群においしい。だが記憶の中の味と、少しだけ違う気もした。それはもしかすると、穏やかな古民家のダイニング、という名のスパイスのせいかもしれない。
佐賀県 「カレーのアキンボ」で供される「マトンカレー」 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
佐賀県 「カレーのアキンボ」のある日のデザート「リンゴと干し柿のスパイス煮とブラウンチーズ」 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
メインディッシュは野菜のカレーだった。ピュアな野菜のおいしさが、カレーという形を通して表現されている。優しく、まろやかで、滋味深い。
締めのデザートを味わいながら、川岸氏自身の話を尋ねた。
「美大で油絵を学び、寿司屋に就職し、そこで3年修業を積んだ後、カレー屋として独立しました」
端的に語られる脈絡のない物語。それはシュールな喜劇のような、波乱万丈の道だ。だがきっと彼はその時々での自身の想いを大切にしながら、その場その場で全力で取り組んできたのだろう。だからこそ今、この魅力的な店が人々を惹きつけているのだろう。
美大での経験はこの古民家の中に満ちるスタイリッシュな雰囲気に、寿司屋での経験は食材への知識と技術に、カレー屋の経験はスパイス使いに。通ってきた道があるから、現在がある。そして現在の行動だけが、未来を切り拓く。『カレーのアキンボ』の料理を通して私が学んだのは、そんな前向きな人生訓だった。
佐賀県 「カレーのアキンボ」内観と「野菜カレー」 | SUBARU グランドツーリングNIPPON

DATA

カレーのアキンボ
住所:佐賀県佐賀市大和町川上475
電話:080-6426-4170   
URL:https://www.facebook.com/
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