暮らすように滞在する里山の
古民家宿は、私に気づきを与えてくれた。
「何かをしなくては」という焦りは時間とともに溶けていった。

レヴォーグで旅する新潟県の旅

2021.11.25 | #3 Niigata Touring /Day3:STAY「里山十帖 THE HOUSE」

旅を考える時、まず宿を決める。つまり目的地は宿だ。
だが考えてみると、旅において宿に滞在する時間は思うよりも短い。ならば宿には何を求めるべきなのだろうか。日常を離れた特別感か、穏やかなくつろぎか。
今回の宿こそ、その答えを教えてくれるかもしれない。私は期待を胸にハンドルを握った。宿の名は『里山十帖 THE HOUSE』。名宿『里山十帖』の離れとして誕生した1日1組限定の古民家宿だ。
新潟県 里山十帖 THE HOUSE露天風呂から巻機山を一望 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
新潟県 里山十帖 THE HOUSE内観とチェア | SUBARU グランドツーリングNIPPON
米どころとして知られる南魚沼は、思っていたよりも賑やかだった。ロードサイドには生活感のある店もちらほらと見える。だが山が近い。町の外れがそのまま山裾になっている。そしてもちろん水田も多い。昔ながらの絵に描いた里山というよりも、米づくりが生活と直結する現代の里山。長い時間をかけて土地と気候に最適化してきた生きた里山だ。
街道を折れ、山道をしばし進む。到着した宿もまた、現代的な装いの中に積み重ねた時間の長さを隠していた。築150年の古民家。長い間、豪雪に耐えてきた重厚感は、モダンなリノベーションを経ても褪せることはない。
新潟県 里山十帖 THE HOUSEベランダの景色 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
その美しく重厚な室内で荷物をほどき、デザイナー家具と思しきチェアに腰を下ろす。窓外に見えるのは、先ほど走ってきた街道だ。
静止した写真の一部分だけが動画として動くシネマグラフという表現手法がある。静と動を対比させた静かな動きは、まるで揺れるキャンドルを見ているように、いつまでも見入ってしまう魅力がある。窓外の景色は私に、そのシネマグラフを思い出させた。
新潟県 里山十帖 THE HOUSE室内 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
新潟県 里山十帖 THE HOUSE室内 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
山々や町並みは止まって見えるのに、その隙間を縫う道路には車が行き交う。消防車が走っている。競走馬を載せた輸送車が進む。軽自動車は細い路地を曲がり、家の影に見えなくなった。青いワゴンがスピードを出して高速道路を行く。車の動きに、その車が運んでいる物語を重ねながら、私はずいぶん長い時間、その景色を眺めていた。
しかし私は、それが無駄な時間だったとは思わない。
むしろこの時間に浸るために、私は旅をしてきたのだと思った。何かを得たとか、学んだとかいう以前の、もっと豊かな時間。「せっかくの旅だから何かをしなくては」という焦りにも似た思い込みは、この宿の時間とともに溶けていった。
新潟県 里山十帖 THE HOUSE室内の囲炉裏 | SUBARU グランドツーリングNIPPON

“この時間に浸るために、私は旅をしてきたのだと思った。何かを得たとか、学んだとかいう以前の、もっと豊かな時間”

新潟県 里山十帖 THE HOUSE室内 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
まもなく夕食だ。迎えの車がやってきて、本館である『里山十帖』まで運んでくれる。木の温もり溢れるダイニングに通され、食事が始まる。さらりと皿を運んできてくれた女性が、料理長の桑木野恵子氏だった。
「魚沼の四季の移ろい、七十二候に寄り添う料理を心がけています」。
まるでこの魚沼の山々のように自然体の桑木野氏。だが、同じくこの山々のような芯の強さも感じさせる。新潟の山海の幸で織りなす八寸、旬のキノコの葛寄せ、子持ち鮎と自家製梅干しを添えた蕎麦粥。最初の数品だけでも、彼女の言葉の真意が伝わる。だから私はプレゼントを待ちきれぬ子供のように、答えを急いでしまう。
新潟県 里山十帖 THE HOUSE料理長桑木野氏 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
「料理を通して伝えたいことはありますか?」。
私のにべもない質問に、桑木野氏は笑って応えた。 
「せっかく山まで来て頂いたから、本当は山の中で食べて欲しいくらい。だからそれができない分、景色が浮かぶ料理だといいなと思っています。ここに来るまでの道中の風景が浮かぶような」。 

こちらも笑顔になるような楽しげな口調だった。私は彼女の思いを、料理を通してはっきりと受け取った。
新潟県 里山十帖 THE HOUSE料理八寸 | SUBARU グランドツーリングNIPPON

“せっかく山まで来て頂いたから、本当は山の中で食べて欲しいくらい。
だからそれができない分、
景色が浮かぶ料理だといいなと思っています”

満天の星空のもと、部屋へ戻る。露天風呂に身を沈め、程よい満足感の元で眠りはすぐに訪れた。それも惜しいとは思わなかった。
朝食は部屋で摂れるという話だった。 
翌朝、部屋にやってきたのは朝食ではなく、料理スタッフだった。部屋に設えられたキッチンで食事の準備がはじまる。土鍋でごはんが炊ける。出汁の香りが漂う。まだ目覚めきらぬ脳に、幼い頃の幻想が浮かぶ。 
「なぜわざわざ部屋で調理を?」。  
「ごはんは炊きたてが一番ですから」。 
私の質問に、スタッフの松浦由奈氏は、さも当然のように応えた。配膳と部屋での調理、わずか5分10分の小さな差を、この宿は何より大切にしているのだろう。それはたとえば親が家族に向けるような、普遍的な優しさ。
新潟県 里山十帖 THE HOUSEダイニング | SUBARU グランドツーリングNIPPON
新潟県 里山十帖 THE HOUSE朝食 | SUBARU グランドツーリングNIPPON

「なぜわざわざ部屋で調理を? 」
「ごはんは炊きたてが一番ですから」

新潟県 里山十帖 THE HOUSEスタッフの松浦由奈氏 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
そして私は合点がいった。
この宿が提供してくれる時間は、特別な非日常ではなく、日常の延長線上にある穏やかさなのだ、と。そして私が宿に求めたのは、そんな当たり前の時間だったのだと。だから何もしない時間を過ごすことも、すぐに眠ってしまうことも、当たり前のように許せるのだ。心穏やかに、まるで暮らすように滞在する宿。もう少しここに居たいと切実に思った。次に来るときは、連泊にしようと決めた。
新潟県 里山十帖 THE HOUSEに到着するレヴォーグ(アイスシルバーメタリック) | SUBARU グランドツーリングNIPPON
新潟県 里山十帖 THE HOUSEと晴天の下レヴォーグ(アイスシルバーメタリック) | SUBARU グランドツーリングNIPPON

DATA

里山十帖 THE HOUSE
新潟県南魚沼市天野沢家森山671-1
TEL:0570-001-810     
URL:https://satoyama-jujo.com/thehouse/
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