無心で釣り竿を振る。
やがて心は澄み渡り、自然に溶け込む。
初めての釣りが私に、教えてくれたこと。

レヴォーグで旅する広島県の旅

2022.05.13 | #30 Hiroshima Touring /Day2:EXPERIENCE「フィッシングレイクたかみや」

広島県の自然といえば、まず瀬戸内の海が思い浮かぶ。
だが地図を眺めてみれば、海岸以外の方がずっと多い。考えてみれば当然だ。海岸線は文字通り線だが、内陸部は面なのだから。そして県内を北上すると、すぐに深い山々に抱かれる。日本海側と瀬戸内側の気候を分ける中国山地だ。
広島を旅するにあたり、海だけでなくこの山側も訪れてみたいと思っていた。海だけを見て広島を知った気になりたくなかった。山でしかできない出会いや体験をしてみたかった。地図を指でたどっていると、中国山地の真ん中、鳥取県との県境近くに、小さな湖を見つけた。検索してみると“フィッシングレイク”なる言葉を見つけた。
釣りはずっと興味はあったが、機会がなかった体験のひとつだ。中国山地を走り、その奥の湖で釣りをする。言語化してみると、素敵なプランに思えてきた。こうして私の旅の予定がひとつ決まった。
広島市街から高速道路に乗った。百万都市の広島はきらびやかな都会だが、トンネルをひとつ抜けると、途端に山になった。中国縦貫自動車道を北上する。道沿いに見える景色は、山と畑。1時間以上走っても、その景色は同じだった。
のどかで、穏やかで、広大な景色を愉しむ。訪れるまでは広島に畑のイメージはなかった。水田も多い。山に囲まれているが、空が広く見えた。どの山も標高がそれほど高くないからだろう。
広島県 安芸高田市の田畑を走るレヴォーグ(クリスタルホワイトパール) | SUBARU グランドツーリングNIPPON
いくつものトンネルを抜けて、インターチェンジを降りる。再び田園風景を抜けてしばし走ると、「フィッシングレイクたかみや」の看板が見えてきた。そこは予想していたよりもずっと美しく整備された場所だった。
まずは管理棟を訪れ、道具をレンタルして簡単なレクチャーを受ける。ここはルアー会社「アートフィッシング」が営む西日本最大規模の管理釣り場だという。ルアー、フライの専用で、釣れるのはトラウト、ヤマメ、イワナなど。ボートのレンタルもあるらしい。
教えてくれたのは、店長の井上美香氏。快活で明るい井上氏の人柄で、私はルアーフィッシング初挑戦の緊張を忘れることができた。そして借りたロッドを持って、湖岸へと向かった。
広島県 「フィッシングレイクたかみや」内観 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
広島県 「フィッシングレイクたかみや」外観 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
空いた場所に腰を落ち着け、改めて道具を観察する。糸の先端に光る小さなルアー。日本最古の国産ルアーメーカーでもある経営元の「アートフィッシング」のものだ。キラキラと光る美しいカラーと、スプーンのような独特な形。きっとこのシンプルな形のなかに、さまざまな知恵が詰め込まれているのだろう。井上氏によれば、このルアーの生みの親である常見忠氏は、「アートフィッシング」社長の師匠にあたる人物。これはその常見氏が作家・開高健氏との交流の中で生み出した“Bite”というルアーで、その名付け親も開高氏なのだという。
広島県 日本最古のルアーメーカー「アートフィッシング」の社長と作家 開高健氏が作ったルアー「Bite」 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
偉大な作家の面影が見え、やる気も湧いてきた。私はさっそく竿を振り、ルアーを投げる。着水を確かめ、キリキリとリールを巻く。早すぎず、遅すぎず。水の中でルアーが魚に見えるように、自然に。
しかしルアーは何も捉えずに手元まで戻ってきた。そう簡単に釣れるものではないのだろう。再び竿を振る。ルアーを投げ、着水、糸を巻く。振る、投げる、巻く、振る、投げる、巻く。そのとき私が何を考えてきたのか、すでに思い出すことができない。きっと何も考えていなかったのだろう。ただ無心で竿を振り、リールを巻く。水面を魚が跳ねた。時折周囲からは歓声が上がり、大物を釣り上げているのが横目に見えた。途中から舟を借りて湖上へ出た。そこでも無心に竿を振って、リールを巻いた。その単調な作業が、心をどんどん空にしていく。私はなんとも穏やかな気分のまま、この空気に浸る。
広島県 「フィッシングレイクたかみや」ボートの上で釣りをする様子 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
半日じっくり粘ったが、結局私は一匹も釣り上げることができなかった。やはりそう簡単なものではないのだ。近くにいた若者のクーラーボックスを覗き見ると、大量の魚が入っていた。
「ここにはたまに来ますけど、今日は多い方ですね」
そう笑う若者たちの満ち足りた顔を見て、私まで嬉しくなった。
広島県 「フィッシングレイクたかみや」クーラーボックスに入っている釣れた魚 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
広島県 「フィッシングレイクたかみや」で釣れた魚 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
管理棟に戻ると、井上氏が出迎えてくれた。
「どうでした?」
と尋ねられ「本当に愉しかったです」と答えたが、もしかすると井上氏は釣果のことを聞いたのかもしれない。しかしニコニコ顔で「それは良かった!」と笑う井上氏の顔を見ながら、改めて今日一日を思い返す。
無心で竿を振った一日だった。悩みも焦りもなく、ただゆったりとした時間を過ごした。“釣りをしている”という大義名分があるから、他の思考に追われることもない。そういえば気づけばいじってしまうスマートフォンを、ここに来てからポケットに入れっぱなしだった。
「これから本格的に釣りをやってみようと思います」
そう宣言すると、井上氏は心底嬉しそうに笑い、小さなルアーをプレゼントしてくれた。あのキラキラと美しいルアーだった。今日は釣れなかったが、良い経験をした。もちろん、このまま終わるつもりもない。次に来るときこそ、絶対に釣り上げてみせる。そう決意して私は、夕暮れの山道を帰路についた。帰り道もやはり美しかった。山での体験と出会いは、私の広島旅行の大切な1ページとなった。
心静かに釣り糸を垂らす時間は、自分自身と向き合う時間だったのかもしれない。この日の釣りは私に、日常から離れるひとときの豊かさを、改めて教えてくれた。
広島県 「フィッシングレイクたかみや」店長 井上氏 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
広島県 「フィッシングレイクたかみや」湖とレヴォーグ(クリスタルホワイトパール) | SUBARU グランドツーリングNIPPON

DATA

フィッシングレイクたかみや
住所:広島県安芸高田市高宮町羽佐竹 1431-1
電話:0826-57-2399
URL:https://www.artfishing.co.jp/takamiya/
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