丸太でできたカタツムリの家。
ニセコの大自然に囲まれた夜、
私は心の底からの充足感を覚えた。

レヴォーグで旅する北海道の旅

2022.07.15 | #47 Hokkaido Touring /Day5:STAY「Tree Shell Niseko」

整備されたゲレンデ周辺に高級ホテルが並び、外国人観光客向けの英語の看板が連なる。まるで外国の避暑地のような、おしゃれな町。もちろんそれもニセコの魅力だが、広大なニセコの大半は大自然に囲まれる閑静な場所。
私は、その“何もない方のニセコ”に浸りたかった。あれこれ思い悩んでいるうちに、一軒の一棟貸しのコテージを見つけた。写真で見ると、そのかわいらしいコテージは林の中にぽつんと佇み、まるで木々と同化するような自然な姿に見えた。私はその「Tree Shell Niseko」の予約を取り、車を走らせて現地に向かった。
羊蹄山を脇目に見ながら道道66号を走り、ニセコ駅を越え、ニセコアンヌプリの山裾へ。畑の中を走り抜け、細い砂利道を進んだ先に、そのコテージはあった。壁に無数の丸太の断面が見える不思議な建物だ。宿泊施設としてのオープンは昨年とのことだったが、建物はもっと古いものに見えた。傷んでいるのではなく、大切に使いこまれてむしろ魅力を増している印象だ。
北海道 Tree Shell Niseko 外観 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
チェックインのために待っていたオーナーの工藤三智子氏に挨拶して、さっそく建物について尋ねてみた。
「丸太をモルタルとともに積み上げるコードウッドメイソンリーという工法です。木はこの地に生えていたカラマツを使っているんですよ」
「セルフビルドなんですか?」
尋ねる私に、工藤氏は頷き、「たいへんだったけど、愉しかったな」と明るく笑った。私はその話がもっと聞きたくなり、室内を案内してもらいながらさらに経緯を尋ねる。
「開拓ごっこがしたい」そんな動機のもと、本州出身の工藤氏がご主人とともにこの地に移ってきたのは、20年ほど前。胸まで伸びた草と木々があるだけの1300坪の土地に、小さな小屋を建てたのが始まりだ。
北海道 Tree Shell Nisekoオーナーの工藤三智子氏| SUBARU グランドツーリングNIPPON
北海道 Tree Shell Nisekoの側に停まるレヴォーグと隙間から見える羊蹄山 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
「冬には10m以上の雪が降る地。週末だけ来て作業するのでは、なかなか進みません。それで退路を断つ意味でアパートを引き払い、ここに建てた小屋に住み始めたのです」
ログハウスビルダーだったご主人はさらに電気工事を学び、工藤氏は職業訓練校で左官を身に着けた。さあいよいよ建物の着工、かと思うとそうではない。
「セルフビルドの本を読んでいて、とあるヒーターが気になって。それでアメリカにそのヒーターの勉強をしに行きました」
そういって工藤氏が指差したのは、建物の中心にある重厚なレンガのストーブ。メイソンリーヒーターという蓄熱型のストーブで、重量は3tもあるという。
「戻ってきて、まずこのヒーターを作りました。だから建物よりも先に、ヒーターができていたんです」
一度火を入れると本体に熱を蓄え、薪が燃え尽きたあとも、じんわりと穏やかな暖かさが続くという。この穏やかな空間を象徴するようなヒーターだ。
北海道 Tree Shell Niseko 内観 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
そしてようやく建物の建築がスタート。デザインのイメージは、カタツムリだ。
「幼稚園の頃かな。私が画用紙にカタツムリの絵を描いたら、母がそれをカバンにキレイに刺繍してくれたんです。きっとそれが心に残っていたんでしょうね」
5歳の頃に撒いた種が、20年の時を越えて実を結ぶ。若き夫婦は小さな小屋に住みながら、カタツムリの家を作りはじめた。モルタルとともに丸太を積む工法は二人がかりで一日作業をしても数十cmしか進まない。草を払い、木を切り、家を建てる。それはまさに開拓と呼べるような日々だったのだろう。
「本当に愉しかった」工藤氏は再びそう言った。それは、毎日が風のように過ぎていく、夫婦ふたりの青春だったのだろう。振り返りながら話す工藤氏の顔に穏やかな笑顔が浮かんでいることが、何よりの証明だ。
工藤氏と別れ、改めて室内を見回してみる。中心に堂々と佇むストーブ、その横には焼き物のストーブがもうひとつ。上から見るとカタツムリの殻に見えるという建物は曲線が中心で、穏やかな開放感に満ちている。柱や梁やハンドメイドだという木製の家具は、丁寧に、大切に使いこまれて輝いている。窓の外をキタキツネが横切った。それは特別なことではなく、このコテージの日常なのだろう。
北海道 Tree Shell Niseko内観 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
北海道 Tree Shell Nisekoの寝室 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
北海道 Tree Shell Niseko 2階から見た1階の様子 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
デッキに出て、レンガで組まれた焚き火台に火を入れる。今日はこのデッキで夕食にしよう。脇には本格的なピザ窯がある。買ってきたのは冷凍ピザだが、きっとうまく焼けるだろう。
夏だと言うのに夕方になると少し肌寒くなってきた。焚火の暖かさが心地良い。林の方でざわりと音がした。姿は見えないが、また動物が遊びに来たのだろう。デッキの椅子にもたれ、炎を見つめながら、私はなんとも言えぬ充足感を味わっていた。
北海道の僻地のニセコの、さらに人里を離れた林の中。ここを選んで良かった。ここに来るまでの道のりを思い出す。都市を離れ、広大な大地を走り、山を抜け、羊蹄山を眺めながら走った。その幸せで豊かなドライブは。ほんのさっきの出来事なのに、良い思い出として心を温める。
北海道 Tree Shell Nisekoのピザ窯でピザを焼く様子 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
北海道 Tree Shell Nisekoで供される夕食 | SUBARU グランドツーリングNIPPON

DATA

Tree Shell Niseko
住所:北海道虻田郡ニセコ町ニセコ310-44
電話:090-9085-2766
URL:https://treeshellniseko.com/
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