舞台は廃校になった木造小学校。
瀬戸内海の離島で体験した
懐かしくも新しい不思議な宿泊体験。

レヴォーグで旅する愛媛県の旅

2022.08.26 | #57 Ehime Touring /Day7:STAY「大三島 憩の家」

旅において、宿泊は体験だ。
過去を思い返してみても、広い部屋やフカフカのベッドよりも、驚きや発見があった宿が強く記憶に残っている。だから私は今回の旅でも、なにか特別な体験ができる宿を探していた。
現地の知人から、「大三島 憩の家」の話を聞いたのはそんなときだ。廃校になった小学校をリノベーションした宿泊施設。瀬戸内海の離島にある小学校に泊まる。海がすぐ目の前だという。校舎は木造だ。夜の静かな校舎で、波の音に包まれて眠る。それは想像しただけでも心踊るような体験だった。
大三島は今治からしまなみ海道に入って3番目の島。日本総鎮守とされる大山祇神社があることから、神の島として大切にされてきた。聖地ゆえに周辺の魚も守られ、漁業よりも農業が盛ん。柑橘王国・愛媛にあって有数の柑橘の産地だという。
事前に学んできた知識を思い返しながら、島への道をたどる。大三島は広いが、大半が森と畑。斜面にある畑にはシーズンになると、オレンジ色の果実がどっさりと実るのだろう。道沿いに多角形を組み合わせたような不思議な建物が見えた。世界的な建築家・伊東豊雄の作品を収めた今治市伊東豊雄建築ミュージアムだ。豊かな自然と近代的な建築のミスマッチが、余計にこの島を魅力的にみせている。
愛媛県 大三島 海沿いを走るレヴォーグ | SUBARU グランドツーリングNIPPON
愛媛県 今治市伊東豊雄建築ミュージアムとレヴォーグ(クリスタルホワイトパール) | SUBARU グランドツーリングNIPPON
島のドライブを愉しんでいると、ほどなく目的地に到着した。案内看板には宿の名前があるが、敷地内には「宗方小学校」の名もそのまま残されていた。木造校舎は重厚だが、廊下は広い中庭に向けて開いていて、いかにも島の学校という開放感がある。
懐かしい。
それが私の第一印象だった。私の通った学校は木造ではない。だが、胸の奥の郷愁を誘う何かが、この建物には漂っていた。日本人の心にもともとそういう想いが刷り込まれているのか。それとも映画『二十四の瞳』に出てきた学校に、どこか雰囲気が似ているからだろうか。
愛媛県 「大三島 憩の家」外観 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
受付を済ませて、部屋に案内された。私の部屋は「1の1」だった。引き戸を開くとそこは、想像とは違う空間だった。ゆったりしたソファと大きなベッドが置かれた室内を、間接照明が柔らかく照らしている。洗面所やバス、トイレも清潔で広々としている。だが窓枠や床やドアを見ると、明らかに小学校の面影が残っている。その不思議なギャップが、ほかにはない特別感を醸し出しているのだ。私は一瞬で、この場所が好きになった。
愛媛県 小学校時代の面影を残す内観 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
愛媛県 「大三島 憩の家」客室内観 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
愛媛県 「大三島 憩の家」客室のウェルカムドリンク | SUBARU グランドツーリングNIPPON
荷物を置いて、散策に向かう。長い廊下を歩くと娯楽室がある。覗いてみると卓球台があり、壁の書架には小学校時代から残ったと思われる蔵書があった。食堂はシックだが、やはり往時の面影が濃い。中庭には朝礼台が残っていた。その向こうにある建物が、新たに作られた海を望む展望風呂だろう。
見るものすべてが懐かしく、そして新鮮だった。この建物のリニューアルは、道中に美術館を見かけた伊東豊雄氏が率いる伊東建築塾が監修したという。
愛媛県 「大三島 憩の家」食堂内観 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
愛媛県 「大三島 憩の家」展望風呂 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
外履きに履き替えて外に向かう。校舎を出て砂浜まで1分とかからない距離だ。瀬戸内海の穏やかな海を見渡す、静かでのんびりした浜だった。砂浜の横にある堤防に、釣り人がいた。私は見知った街を散歩しているような穏やかな気分のまま、気負いもなく話しかける。
「何を狙っているんですか?」
「アジだよ」
「釣れますか?」
「ぜんぜん」
言葉少なだったが釣り人は、どこか愉しそうだった。きっと釣果をあげることよりも、こののんびりとした空気に浸ることを愉しんでいるのだろう。
愛媛県 上空から見た「大三島 憩の家」と浜 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
愛媛県 堤防で釣りをする現地の方 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
宿に戻り風呂から上がると、夕食の時間だった。この夕食は圧巻だった。ハモ、セトダイ、イサキ、サザエ、タイ、オコゼ。このコースのために一体何尾の魚を使っているのだろう? どれも新鮮で脂が乗っている。何より、素材を活かす調理が見事だ。
料理を担当するこの宿の主人は、大三島にある料理旅館に生まれた和食一筋の人物だそう。和食の粋を知り、この地の魚を知り尽くす。魚づくしでありながら、変化に富んだおいしさにも納得だ。
食事を終えて部屋に戻り、満たされた気分のまま眠りにつく。学校で眠るという非日常に浮かれたためか、なかなか寝付けなかった。
夜半に目が覚めた。
手洗いに立とうと枕元の灯りをつけて、ふと思いたつ。夜の校舎を、少しだけ歩いてみよう。
時折ミシッと板鳴りがする廊下を歩く。夜中の学校は静まり返っている。昼間は爽快感と開放感に満ちていた校舎が、急にミステリアスな場所に思えてくる。これはたったひとりの肝試しだ。きっと学校という存在が、私の童心を思い起こさせたのだろう。
大人になってからどれくらい、この気持を忘れていただろうか。高揚感と緊張感と、少しの背徳感。ドキドキする気持ち、懐かしさ。宿泊を通し、思いがけずこんな気持ちに包まれたことがうれしかった。何歳になろうと、旅には発見があり、人生には冒険がある。そんな甘酸っぱい想いを、改めて抱くことができたのだから。
愛媛県 「大三島 憩の家」夜の廊下 | SUBARU グランドツーリングNIPPON

DATA

大三島 憩の家
住所:愛媛県今治市大三島町宗方5208-1
電話:0897-83-1111
URL:https://www.ikoinoie.co.jp/
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