牛に愛情を注ぎ
牛とともに幸せに生きる。
ある牧場主の誇り高き決断。

レヴォーグで旅する石川県の旅

2022.11.25 | #69 Ishikawa Touring /Day2:Experience「どぢゃまファーム(寺西牧場)」

能登でレストランを営む知人から、おもしろい牧場の話を聞いた。
そこでは完全放牧で、乳牛を育てているという。何が“おもしろい”かは、行ってみればわかるという。一般向けの体験牧場ではないが「頼めば体験させてくれるんじゃない?」という話だった。
そんな言葉から、牧場主の人柄がなんとなく想像できた。
教えられた住所を頼りに牧場へ向かった。
その牧場の名は『どぢゃまファーム(寺西牧場)』といった。
石川県 どぢゃまファーム(寺西牧場)のジャージー牛 | SUBARU グランドツーリングNIPPON | SUBARU | レヴォーグ

ジャージー牛は体格が小さく、搾乳量も少ないが、濃厚で甘みのある牛乳がとれるという

海岸線から内陸へと進む道にハンドルを切ると、辺りは里山の景色に変わった。ゴツゴツとした岩場と荒波が印象的な日本海とは対象的な、のどかな眺めだ。夏が終わり、雪が降るまでの秋のひととき、この穏やかで牧歌的な眺めが愉しめるのだろう。
しばらく走ると道沿いに『どぢゃまファーム』の看板を見つけた。牛の姿は見えないが、ここが目指す牧場のようだ。
車を停めて、牧場主の寺西喜久次さんに挨拶をする。寺西さんはひと目で人柄が伝わるような穏やかな笑顔で出迎えてくれた。
「牛はどこにいるんですか?」
「どこ行っちゃったんだろうね。ちょっと探してみようか」
さっそく尋ねてみると、寺西さんから予想外の言葉が返ってきた。
牧場は広さ13ヘクタール。その広大な牧草地に、牛はわずか7頭。それぞれ勝手に、思い思いの場所で草を食べ、休んでいるというのだ。
牧草地を並んで歩きながら、この牧場について尋ねてみた。
寺西さんは昭和40年代の奥能登の農地開発事業でこの地に入植し、酪農をはじめた。
徐々に牛の数を増やし、一時は一日1400リットルの牛乳を搾っていたという。しかし飼料となる穀物価格の高騰などで2010年に廃業。飼っていた80頭のホルスタインもすべて手放した。
それでも酪農への思いが捨てきれず、2014年に3頭の子牛から再スタート。今度は搾乳量は少ないがおいしい牛乳がとれるジャージー牛にした。一日の搾乳量はおよそ20リットルだ。
「それで商売になるんですか?」
「なっとらんよ」
私の素朴な疑問に、寺西さんは笑った。
「商売にはならんけど、のびのび育った牛のミルクはやっぱりおいしいんですよ」
石川県 どぢゃまファーム(寺西牧場)の牧場主 寺西喜久次さん | SUBARU グランドツーリングNIPPON | SUBARU | レヴォーグ

寺西喜久次さん。石川県白山市で父が営む牧場で経験を積み、1972年にこの地にやってきた

しばらく歩くと、木陰で休む牛がいた。
寺西さんの姿を見つけると、牛たちは体を寄せてくる。隣を歩く私にまで体を寄せ、顔を舐めてくる。この牛たちは、寺西さんのことが大好きなのだ。寺西さんも愛おしむように牛の体を撫でる。そこには、見ているだけで心が暖かくなるような絆があった。
石川県 どぢゃまファーム(寺西牧場)の動画 | SUBARU グランドツーリングNIPPON | SUBARU | レヴォーグ
一度牛舎に戻って、搾乳の準備をする。
準備を終えると寺西さんは、牧草地に向かって大声で呼びかけた。
「来―い、来い、来い」
独特なリズムでの呼びかけに応えるように、牛たちが集まってきた。そして牛舎の中の、決められた場所に自分から入っていく。言葉が通じているのかと錯覚するような眺めだ。
「やってごらん」
そう言われて乳搾りを体験させてもらった。通常は搾乳機を使うが、「手搾りのほうがイメージ通りでしょう」という。牛の乳は柔らかく、暖かい。大きな動物に触れる、という行為がなんとも言えない安心感をもたらしてくれる。
石川県 どぢゃまファーム(寺西牧場)の牧場主 寺西喜久次さんの呼びかけでやってくるジャージー牛たち | SUBARU グランドツーリングNIPPON | SUBARU | レヴォーグ

寺西さんの呼びかけでやってくる牛たち

石川県 どぢゃまファーム(寺西牧場)の牛舎と作業をする牧場主 寺西喜久次さん | SUBARU グランドツーリングNIPPON | SUBARU | レヴォーグ

もちろん牛たちには名前があり、寺西さんはそれぞれの性格も理解していた

石川県 どぢゃまファーム(寺西牧場)のジャージー牛の乳搾り | SUBARU グランドツーリングNIPPON | SUBARU | レヴォーグ

体験させてもらった乳搾りは、生命の神秘に触れるような印象深い体験だった

それから搾ったばかりの牛乳を飲ませてもらった。
なんておいしい牛乳だろう!
甘みがあり、濃厚なコクがあるのに、サラリと喉越しが良い。そのままの牛乳が、まるで上質なミルクジェラートのようなおいしさなのだ。
「おいしいです」
私が率直に伝えると、寺西さんは「そうでしょう」と笑った。
これほどおいしい牛乳なのだ。もっと搾れば、もっと売ることだってできるだろう。だが牛を増やすと一頭一頭への愛情が届ききれなくなってしまうのかもしれない。「のびのびと、幸せに育てたい」という寺西さんの思いは、商売としては茨の道なのだろう。
「牛乳は気に入った人に使ってもらう、牧場は見たいという人には見せる。いまはそれだけで良い」
そう話す寺西さん。この素敵な牧場がずっと続いてほしい。寺西さんと牛たちに別れを告げ、牧場を後にした私はそんなことを考えていた。
石川県 どぢゃまファーム(寺西牧場)の搾りたての牛乳 | SUBARU グランドツーリングNIPPON | SUBARU | レヴォーグ

まるでスイーツのようにおいしい搾りたての牛乳

石川県 どぢゃまファーム(寺西牧場)の牧場主 寺西喜久次さんと身を寄せるジャージー牛 | SUBARU グランドツーリングNIPPON | SUBARU | レヴォーグ

寺西さんを信頼しきったような牛の姿が印象的だった

DATA

どぢゃまファーム(寺西牧場)
住所:石川県鳳珠郡能登町瑞穂豊ケ丘ろ字11
電話:0768-67-1515
URL:https://naviishikawa.com/0768-67-1515/
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