日本海を前に私は裸になった。
「200点」の景色を望み、
言葉を失った。
その刹那、脱ぎ捨てたのは服ではなく、心だったのだと気付いた。

レヴォーグで旅する新潟県の旅

2021.11.25 | #7 Niigata Touring /Day7:EXPERIENCE「サウナ宝来洲」

サウナとは、娯楽だ。生きる上でどうしても必要なものではない。娯楽であり、レジャーであり、つまり遊びだ。それが悪いというのではない。むしろ遊びに全力を傾ける大人がいることが、たまらなくおもしろい。
新潟に海が見えるサウナがあると聞いて、少し足を伸ばして訪れてみた。海岸線に沿うように走る国道8号線は、そのルートの大半がオーシャンビュー。ワインディングも起伏も少なく、ただ爽快なドライブが楽しめる。目的を忘れかけた頃、噂の海が見える『サウナ宝来洲(ホライズン)』に到着した。訪れてみると、海が見えるどころではなかった。そのまま海だった。道路を挟んで向かいにある『小竹屋旅館』で水着に着替え、水着のまま道路を渡る。
サウナ室に入ると、目線の高さの窓から海が見えた。時計とにらめっこしながら「あと5分、あと3分」と我慢するのではなく、ただ海に見惚れていると時間が過ぎる。体が十分温まったら、サウナ室を出て浜辺へ。このサウナに水風呂は、ない。代わりに海がある。海風に耐えながら浜辺を走り、そのまま海に飛び込む。火照った肌を冷たい日本海が冷やす。皮膚がきゅっと収縮し、心が溶けていく。海水の浮力に任せ、海の上に大の字に浮かぶ。視界が空だけになる。波が体を揺する。
思わず腹の底から吐息が漏れる。 
「なんという開放感、なんという贅沢だろう!」。 
体が冷えたら、サウナ室の屋上にあるデッキへ。無論、ここからも海が見える。
目をつぶっていても、寄せる波の大きさまではっきりとわかる。 
新潟県 サウナ宝来洲から望む日本海とチェア | SUBARU グランドツーリングNIPPON

思わず腹の底から吐息が漏れる。
「なんという開放感、なんという贅沢だろう! 」

新潟県 サウナ宝来洲外観とレヴォーグ | SUBARU グランドツーリングNIPPON
ふと、この施設の設計者は、この景色を見せたかったのではないかと思った。海辺の適地があったからサウナを作ったのではなく、この海を見せたいがためにサウナという手段を選んだのではないか。それほどサウナの施設すべての中心に海が据えられている。 
何度かサウナと海を往復していると、オーナーである杤堀(とちぼり)耕一氏と話すチャンスに恵まれた。思い切って先程の疑問をぶつけてみた。 「この海に特別な思い入れがあるのですか?」。 
「この海を見て育ちましたから。何十年もずっと“この海をどう活かすか”だけを考え続けてきました」。 
思った通り、この海を見て育ち、この海を誰よりも愛する人物だった。

半世紀以上前にこの地に海の家を開き、その後『小竹屋旅館』を開いた祖父と両親。その家に生まれ、賑わう海水浴場を見て育った杤堀氏だが、やがて時代が流れる。価値観の多様化が、人々の興味を少しずつ海から逸していったのだ。一度は故郷を離れていた杤堀氏はこの地に戻り、さまざまな手を打った。しかし天候や海況など自然の力には抗えない。夏の海水浴客減少も止まらない。それでも杤堀氏は、この海を、ただ寂れさせたくはなかった。「何かしないと、何か」そう考え抜いた杤堀氏の目に、偶然「サウナ」の文字が飛び込んできた。「これしかない」杤堀氏の心は決まった。
新潟県 サウナ宝来洲オーナー杤堀耕一氏 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
人気のアウトドアサウナを体験しに行き、勢いのままその支配人に施設のプロデュースを直談判し、地元工務店と話し合い、日々サウナについて学び、最新のサウナ専用薪ストーブを準備し、フィンランドからサウナストーンを取り寄せる。思いついてから施設のオープンまで、わずか9ヶ月の出来事だ。
まるで映画のストーリーのように開業秘話を聞かせてくれた杤堀氏。その端々から伝わる、この海への思い。これだけの施設を作るのだから、大きな決断だったことだろう。だが杤堀氏の言葉からは、先への不安ではなく、新たなことを始めるキラキラとした高揚が伝わってくる。
「好天の日ばかりじゃないですよね」
「自然が相手ですから、0点の日もあれば200点の日もあります」
窓の外を見ながらふと漏らした私の問に、杤堀氏は応えた。そして「だからこそ面白い」と笑った。強がりではなく、本当に楽しんでいるのが伝わってきた。それから最後に「どの海も大好きだけど、とりわけ海に夕日が沈んでいく時間が好き」と語った。
新潟県 サウナ宝来洲オーナー杤堀耕一氏 | SUBARU グランドツーリングNIPPON

「好天の日ばかりじゃないですよね」
「自然が相手ですから、0点の日もあれば200点の日もあります」

「本当に、最高の眺めですよ」。 
疑いようはない。この海を知り尽くした杤堀氏が「最高」と言うならば、本当に息を飲むような景色が待っているのだろう。そろそろ帰り支度を、と思っていたが、もう少しだけ温まって夕焼けを待とう。
新潟県 夕暮れのサウナ宝来洲に佇むレヴォーグ(アイスシルバー・メタリック) | SUBARU グランドツーリングNIPPON

DATA

サウナ宝来洲(ホライズン)
新潟県柏崎市鯨波2-3-6 小竹屋旅館敷地内
TEL:0257-41-6270     
URL:https://www.odakeya.com/sauna/
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