アマゴに扮して山を歩く。
ある自然ガイドの青年が
ユニークな装いに隠した想い。

レヴォーグで旅する大分県の旅

2023.2.10 | #81 Oita Touring /Day6:EXPERIENCE「旅するアマゴ」「祖母山麓トレッキング」

大分県と宮崎県の県境に、祖母山という名峰がある。
読み方はそのまま「そぼさん」。日本の初代天皇とされる神武天皇の祖母の故郷であることが由来だという、最高峰の伝説の舞台だ。そして神聖な場所だけに自然が大切に守られ、祖母山中を巡るトレッキングにはさまざまな見どころがあるらしい。
知るほどに私は、祖母山に行ってみたくなった。だが見どころが多いのならば、ただやみくもに歩くよりプロのガイドとともに巡るツアーが良いだろう。調べていると、「旅するアマゴ」なる祖母山のガイドツアーを請け負う黒阪 旅人さんというガイドを見つけた。私はさっそく予約をして当日を待った。
当日。
車を走らせて祖母山へと向かう。
周囲は徐々に山景色になり、神話の舞台らしい荘厳な空気が漂う。朝から降ったり止んだりを繰り返す雨が木々を濡らし、いっそう神秘的な雰囲気を醸し出していた。私は気持ちを引き締めるような気分で、黒阪さんに指定された駐車場に向かった。
大分県 神秘的な雰囲気を醸し出す祖母山の山肌 | SUBARU グランドツーリングNIPPON | SUBARU | レヴォーグ

祖母山の駐車場へと向かう道は深い山道。しっとりと濡れた木々が神秘的な雰囲気を醸し出す。

駐車場で待っていた黒阪さんの姿は、少し想像と違っていた。
いや、その人物像は、メールでのやり取りから想像した通り、物腰やわらかく、真っ直ぐな目をした青年だ。ただひとつ予想外だったのは、彼が魚の被り物をかぶっていたことだ。某タレントを思い出さずにはいられない、派手な魚の被り物だ。彼がふざけているのではないことは、その真摯な目からわかる。そして私は、彼のスタイルの理由を知ることになる。
自作だという被り物のモデルは、アマゴ。
脇腹にある赤い斑点が特徴のアマゴは、中部から九州にかけて分布する川魚。古くから親しまれてきたが近年、放流された養殖魚との交配で天然アマゴは絶滅の危機に瀕しているという。そして禁漁区、禁放流区に指定されるこの祖母山には、そんな稀少な天然アマゴが残されている。 しかし稀少であるがゆえに、トレッキングでも必ず見ることができるわけではない。だから黒阪さんは、自身がアマゴになった。天然アマゴを伝え、守っていくために、あえて奇抜な格好をしているのだ。
大分県 | 旅するアマゴ | 祖母山麓トレッキング | SUBARU グランドツーリングNIPPON | SUBARU | レヴォーグ
姿は道化師に、心は騎士に。自らの想いを押し隠し、道化に徹する……。
ツアーがはじまり山道を歩き出してみると、どうやらそういうわけでもないと気づいた。黒阪さんは、心底愉しそうに山を歩き、キラキラとした目で自然を見つめる。きっと彼は純粋に、この山と自然が大好きなのだ。そして底抜けに陽気だ。
「日頃はレッツゴー!で出発すると思いますが、今日はレッツ アマゴー!で行きましょう。僕が“レッツ”といったら元気よく“アマゴー!”でお願いします」
この日の参加者は大人だけ。
若干の照れもあったが、徐々に黒阪さんの空気に飲まれテンションが上がる。
山道は険しかったが、黒阪さんのガイドのおかげで愉しみながら登ることができた。黒阪さんは、タブレットを使って要所でクイズ形式の質問を飛ばしてくる。祖母山の成り立ちから、歴史のこと、自然のこと、文化のこと。
クイズは興味のツボをしっかりとおさえている。さらに正解数に応じてご褒美がある、などと聞き参加者たちは真剣に頭を悩ませてクイズに挑む。大人の参加者でこののめり込みようなのだ。きっと子どもがこのツアーに参加したら、自然に興味を持ち、この自然から多くのことを学ぶことができるだろう。
大分県 大きな岩がゴロゴロした祖母山の山肌 | SUBARU グランドツーリングNIPPON | SUBARU | レヴォーグ

1500万年前の噴火で形成された祖母山には大きな岩がゴロゴロ。「僕たちは1500万年前の地面に立っている」と黒阪さん。

登山道はいつしか、渓流を見下ろすように伸びていた。
眼下にいくつもの滝がみえる。黒阪さんは、そのひとつの滝壺を示し、アマゴの生息地だと教えてくれた。教えられたとおりに体勢を低くして滝壺に近づく。揺れる水面に光が反射し、はっきりとは見えないが、たしかに動く魚影がみえた気がした。
気を取り直してさらに上を目指す。
さすがに疲労が溜まりはじめ、参加者の口数も減ってきたころ、本日の目的地である御社の滝に到着した。先程の滝壺よりもさらに澄んだ水の中に、先程よりも多く天然アマゴがいるという。
静かに水辺に近づき、覗いてみる。
いた。
今度は“なんとなく”ではなく、はっきりと天然アマゴを見つけることができた。
それはまるで隠された宝を見つけたような喜びだった。
道中でクイズや解説を通して天然アマゴについて学んだおかげで、実物を見ることができた価値がいっそう高まったのだ。まさに黒阪さんの狙い通りの展開だろう。
大分県 川の底が見えるほど澄んだ滝壺 | SUBARU グランドツーリングNIPPON | SUBARU | レヴォーグ

最初に見た滝壺。落ち葉と反射光で、アマゴをはっきりと確認することはできなかった。

大分県 川の底が見えるほど澄んだ滝壺 | SUBARU グランドツーリングNIPPON | SUBARU | レヴォーグ

目的地の御社の滝。水は澄み、はっきりと天然アマゴを確認できる。ちなみにアマゴは写真中央部の三角錐の岩の手前付近。

水辺で黒阪さんが淹れてくれたコーヒーをいただいた。
岩に腰掛け、水を見つめながら、黒阪さんと話をした。
彼自身についても、少し尋ねてみる。
幼い頃に両親とともにこの地に移住してきた黒阪さんにとって、この地は故郷だという。だから東京で9年間暮らしていた間も、いつかはここに戻りたいという想いを持ち続けていた。そして昨年、念願かなって大分県に戻り、大好きな自然の仕事をはじめたのだ。
「まずは“自然って愉しい!”と思ってもらいたい。そしてそんな自然がすぐそばにあることを伝えていきたい」
休憩でアマゴの被り物を脱いだ黒阪さんは、少しだけ物静かな印象にみえた。もしかすると黒阪さんはあの派手な被り物で、いつもの自分にないキャラクターを演じているのかもしれない。
しかし素顔の黒阪さんもまた、真っ直ぐな目で誠実に話しをする。そしてキラキラとした目で自然を見つめる。その素顔を垣間見たことで、私はいっそうこの爽やかな青年が好きになった。
大分県 岩の上で淹れたコーヒー | SUBARU グランドツーリングNIPPON | SUBARU | レヴォーグ

黒阪さんが淹れてくれたコーヒーと、地元銘菓のおやつ。

大分県 「旅するアマゴ」なる祖母山のガイドツアーを請け負う黒阪旅人さんと御社の滝 | SUBARU グランドツーリングNIPPON | SUBARU | レヴォーグ

アマゴのマスクをとった黒阪さん。東京では玩具メーカーに勤めていた。

DATA

旅するアマゴ(自然ガイド)
URL:https://letsamago.studio.site/
大分に関する他の旅紀行も読む

Oita

レヴォーグ | SUBARU グランドツーリングNIPPON
すべての移動を感動に変えるクルマ
クルマの移動をもっと特別に。
もっとしあわせに。
LEVORG WEB SITE
レヴォーグ | SUBARU グランドツーリングNIPPON
すべての移動を感動に変えるクルマ
クルマの移動をもっと特別に。
もっとしあわせに。
LEVORG WEB SITE
レヴォーグ | SUBARU グランドツーリングNIPPON
すべての移動を
感動に変えるクルマ
クルマの移動をもっと特別に。
もっとしあわせに。
LEVORG WEB SITE