謎のグランメール チキン。
未知の料理を求め訪れた大分での
心に残る美味と、心あたたまる出会い。

レヴォーグで旅する大分県の旅

2023.2.17 | #82 Oita Touring /Day7:EAT「ぞんたーく ひかり」

旅を彩るご当地料理には2種類ある。
ひとつは歴史や風土が育んだ伝統的な料理、もうひとつは誰かが考案した地元の味。後者は“B級グルメ”などともいわれるが、少し考えてみれば、人類の食の歴史の中、新たな料理を生み出し定着させることは並大抵のことではないと気づく。だから私は旅に出るとき、等しくいろいろなご当地料理の情報を集める。
今回、大分県竹田市を旅の目的地に決めたとき、何人かから“グランメールチキン”なる言葉を聞いた。初めて聞く名だった。名前からは、鶏料理であることくらいしかわからない。謎めいた名前に惹かれ、その元祖という店を訪れることにした。店の名は『ぞんたーく ひかり』だ。
大分県 山道を走るレヴォーグ(セラミックホワイト) | SUBARU グランドツーリングNIPPON | SUBARU | レヴォーグ

店への道中は、心細くなるような山道。カーナビを信じて進む。

カーナビを頼りに、車を走らせる。
市街地から離れ、やがて道は完全な山道になった。さらにしばらく走って、ようやく目的の店が見えてきた。ずいぶんと辺鄙な場所にあるものだ。周囲には店はおろか、民家さえまばら。もしかして人嫌いで偏屈な方が営んでいるのだろうか。そんな不安がよぎる。
「いらっしゃい!」
おそるおそるドアを開くと、女将さんと思しき女性の声が出迎えてくれた。そして奥から出てくるキャップをかぶった男性。えびす様のようなニコニコ笑顔に、私はさきほどの不安は吹き飛んだ。
「どこから来たの?」
問われて答えると「それは遠いところからようこそ。ゆっくりしていってね」との言葉。言われるままに、住宅を改装したと思われる客席に腰を下ろす。田舎の親戚を訪ねたような穏やかな気分だ。
大分県 「ぞんたーく ひかり」外観 | SUBARU グランドツーリングNIPPON | SUBARU | レヴォーグ

築80年以上経つ叔父の家を改装したという店舗。

大分県 「ぞんたーく ひかり」内観 | SUBARU グランドツーリングNIPPON | SUBARU | レヴォーグ

掘りごたつから小学校で使われていた机までさまざまな客席だが、不思議な統一感がある。

決めていた通り、グランメールチキンを注文する。驚きが薄まらないよう、それがどんな料理なのかは、あえて聞かなかった。店主が厨房に入ると、やがて油で揚げるような音が聞こえてきた。まだ見ぬ未知の料理に、期待がどんどん高まっていく。
10分ほどして、湯気を上げる皿が運ばれてきた。
大振りなチキンカツに茶色いソースがかかり、その上でチーズがとろけている。
「これは、おいしいやつだ」そのビジュアルと香りだけで、食べる前から確信する。
さっそく味わってみると、想像以上だった。
熱々のチキンカツに濃厚なデミグラスソースが絡み、チーズのコクが奥行きを加える。デミグラスソースは甘めだが、野菜由来の甘みなのか、しつこさはまったくない。そしてその甘みが、チーズの塩気と実にバランス良く混じり合う。
いままでに食べたことがない味の組み合わせだった。そして間違いなく遠くから訪れる価値があるおいしさだ。
大分県 「ぞんたーく ひかり」のグランメールチキン | SUBARU グランドツーリングNIPPON | SUBARU | レヴォーグ

グランメールチキンとついにご対面。自家製野菜のサラダやポタージュがつくセット。

大分県 | ぞんたーく ひかり | SUBARU グランドツーリングNIPPON | SUBARU | レヴォーグ
あっという間に食べ終わり、食後のコーヒーを飲んでいると再び店主がやってきた。
「田舎だから話し相手は嫁さんだけ。だからお客さんと話すのが好きなんです」
という店主・山村孝二さん。
聞けばグランメールチキンは、チキン南蛮に対抗して「他にないメニューを」との想いで考案したという。ポイントは丁寧に筋切りして柔らかくする鶏もも肉と、オランダ産、ドイツ産、デンマーク産をブレンドするチーズ。コクと塩気が絶妙なチーズと、デミグラスソースの味わいは、繰り返しの試行錯誤の賜物なのだろう。
大分県 「ぞんたーく ひかり」店主・山村孝二さん | SUBARU グランドツーリングNIPPON | SUBARU | レヴォーグ

穏やかに話す山村さんとの会話も、この店での思い出となった

さらに話は、山村さん自身についてにも及んだ。
昭和62年、大分市の美術館のなかに、妻の美佐子さんと二人で小さな洋食店を開いた。グランメールチキンは、そのときに考案したもの。それからおよそ30年。二人も息子を育てながら、一生懸命働き続けた。
そして2021年、故郷である竹田市に移転し、いまは自身で野菜や麦を育てながら、変わらぬ味を守り続けているという。
山村さんの言葉の端々に見えるのは、長年苦楽をともにしてきた奥様への愛情と感謝。そんなあたたかさがきっと、店の居心地の良さにも、グランメールチキンの優しいおいしさにも繋がっているのだろう。
帰り際、店のそばにある畑を見せてもらった。
ここには何々を植えている、来年は何々を育ててみたい。畑を前にあれこれ語る山村さんは、心底愉しそうだった。
「厳しい時期だけど遠くから来てくれるお客さんのためにも、続けていきたい」
そう話す山村さん。
ちなみにグランメールはフランス語で「おばあちゃん」。現在、グランメールチキンを味わえるのは大分県の洋食屋と弁当屋、そして和歌山県のレストラン。弁当屋と和歌山県の店は山村さんの息子たち、そして大分の洋食店はお弟子さんの店だという。山村さんが考案した、“おばあちゃん”という名の優しい料理は、少しずつ確実に世に広がっている。
大分県 「ぞんたーく ひかり」畑から見渡す絶景 | SUBARU グランドツーリングNIPPON | SUBARU | レヴォーグ

畑から見渡す絶景。「夏も冬も厳しい。だけど豊かな場所」と山村さん。

大分県 「ぞんたーく ひかり」店主・山村孝二さん | SUBARU グランドツーリングNIPPON | SUBARU | レヴォーグ

「畑はいま一番の愉しみ」と心底愉しそうに語る山村さん。

「またおいでよ」
という山村さん夫妻に別れを告げて車に乗り込んだ。
行きは果てしない山道に思えた道程も、帰りは軽やかな気分だった。素晴らしい味と、素晴らしい夫婦に出会えた喜びが、まだ心を満たしていたから。

DATA

ぞんたーく ひかり
住所:大分県竹田市荻町馬背野380
TEL:0974-68-2217
営業:11:00~17:00 ※平日は、前日までに要予約
URL:https://taketa.guide/spots/detail/45b07767-5a43-4063-8351-c15413aea180
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Oita

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