開発ストーリー

デザイン 篇

LEVORG、SUBARU 25年目の革新

※この開発ストーリーは、2014年6月20日に掲載されたものです。

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美しさのセオリー

LEVORG、SUBARU 25年目の革新

小林正彦氏

 国内専用モデルとして企画された新型車、レヴォーグの開発は“SUBARU 25年目のフルモデルチェンジ”と謳われているだけあって、既成概念を超えたさまざまな取り組みが行なわれている。それが最も端的に表れているのがエクステリアデザインだ。シャープで彫りの深いフロントの造形や、グッと絞り込んだ緊張感のあるリヤスタイルには、これまでのSUBARU車とはひと味異なるスタイリッシュな魅力が備わっている。
今回、チーフデザイナーとしてレヴォーグのデザイン開発を手掛けた小林正彦は、このようなSUBARUにとっては革新的と言ってもいいデザインが成立した背景を次のように話している。

「従来は、設計エンジニアがあらかじめハードポイントを決めて、そのサイズの中でデザインを進めてきました。それに対して今回は『革新スポーツツアラーを造る』という目標に向かってチームが結束し、デザイナーも設計エンジニアもゼロからスタートし、それぞれが理想とするものを一度テーブルに出すところから検討を始めたのです」

 今回は、開発の初期段階からスタイリングを重視してクルマ造りを進めるという雰囲気があったという。しかしながら、そこに至る前段階で先ず『革新スポーツツアラー』という開発コンセプトから具体的な車両のイメージを描き出す必要があった。“革新”と言うからには、単にスバルの新型車を開発するだけでなく、世の中にないジャンルのクルマを創造するくらいのものでなければならない。

革新の発火点となった、一枚のスケッチ

 「一体どんなクルマを造れば良いのだろう…。開発当初、スタッフが集まって討議を繰り返しましたが、なかなか皆のイメージがまとまりませんでした。そこで、原点に立ち返り、車両のサイドシルエットを描きながら、既存のワゴンタイプの車両を見つめ直したのです。ステーションワゴンというと、かなりの量の荷物を積載し、文字通り駅から駅へと長距離移動するようなイメージがあります。そうするとリヤゲートが立っていて箱っぽいイメージのクルマが想像できます。その対極に位置するのが、極限までワゴンとしてのユーティリティを切り詰めた形状のクルマ、シューティングブレイクです。これは元々スポーツカーに乗っているような人たちが、狩猟(シューティング)に出かける際に、ライフルなど必要最小限の道具を積載するために、2ドアクーペの後部に荷室を取り付けようという発想から生まれたスタイルです。SUBARUでもBRZに荷室を設けたコンセプトモデルを東京モーターショーに出展しましたので、ご記憶の方もいらっしゃるでしょう。
 そうやって考えていくうちにスタッフの一人がスポーツカーにワゴンのユーティリティを付けたらどうなるだろう? と一枚のスケッチを描き始めました。その瞬間、スタッフ全員のイメージがピタリと一致しました。カッコ良いスポーツカーを作ろう。だけれど、4枚の扉とゲートを持ち、最低でも4代目レガシィと同程度の荷室容量は持たせよう。そんな機能とスタイリングを両立させたクルマができたら、これこそ革新になるじゃないか」

 それは他に比較するべきクルマが存在しない、まさに新たなジャンルと呼ぶにふさわしいコンセプトであった。そしてそのコンセプトを具現化できるとしたら、長年にわたってワゴンを造り、ノウハウを蓄積してきたSUBARU以外に考えられなかった。
 目標が明確になれば後は早かった。なぜなら小林の頭の中には“人をわくわくさせるカッコいいクルマ”をデザインするためのノウハウがふんだんにあったからだ。

 小林は、日本のデザイン学校を卒業した後、自動車のデザインについて専門的に学ぶため、米国カリフォルニア州パサデナにあるアートセンター・カレッジ・オブ・デザインのトランスポーテーションデザイン学科に留学している。カリフォルニアには世界中からクルマが集まっており、年式も古いものから最新型まであらゆるタイプを見ることができる。さながら“走るクルマの博物館”だった。美術大学で学んだものはもちろん多かったが、そのような環境に身を置いて、世界各国のクルマを毎日のように見続けたことで、日本車の良いところも悪いところも見えてきたと小林は言っている。
「万人が納得する“カッコ良いデザイン”を造るための教科書はありません。けれど、きれいなデザインを成立させるための法則はあります。レヴォーグでは私が知っている“美しさのセオリー”を可能な限り投入し、設計者も含めてSUBARUの持てる技術を結集しました」
 そう話す小林に、クルマの美しさがどのようにして生み出されていくのか、レヴォーグを例にしてセオリーの一端を紹介してもらった。

スタンスの良さ〜カッコ良さの基本はタイヤから

 タイヤと上屋(ボディ上部)とのバランスを表すための表現として、小林は“スタンス”(佇まい)という言葉を使っている。カッコ良いデザインのクルマは、いずれも優れたスタンスを持ち、非常にバランスの良いプロポーションが成立しています。小林はこのスタンスを特に重視しており、ボディデザインをする際は、常にタイヤの存在(位置やサイズなど)を意識して進めていくという。
「良いスタンスというのは、端的に言うなら、タイヤが四隅で踏ん張っていて大きく、上部と絶妙にバランスされたプロポーションです。タイヤが外側に張り出して、大きく見えるほどスタンスが良く見え、逆にくりぬいたホイールアーチの奥に嵌め込んだようなタイヤでは、どれだけボディが美しい造形であってもスタンスが悪く、カッコ良いデザインには見えません。しかし、物理的にタイヤを大きくしなくても、よりスタンス良く仕上げるための手法があるのです」トラックの人気が高い北米では、より高いポジションでの側面衝突を想定した対策を施さなければならない。対して単独で立ち木などに衝突するようなケースが多い欧州では、側面衝突の形態もまた北米とは異なる。これを反映して、北米と欧州で行なわれる自動車アセスメントでの評価方法もまた異なってくる。

 そこで重要になってくるのが“プランビュー”だ。同じホイールベース、トレッドのクルマでも、プランビューを工夫することで、タイヤが前に出てカッコ良く見えるという。LEVORGでは、この考え方を採り入れ、ボディの前後(特に後部)をいままでのSUBARU車ではなかったほど後端へ向けて大胆に動かし、絞り込んでいる。さらに小林はフェンダーの形状やホイールアーチ周辺の見せ方も重要だと話す。
「ポイントとなるのはホイールアーチのすぐ上の面です。ここに大きな平らな面があると、タイヤは小さく見え、スタンスが悪くなってしまいます。レヴォーグでは、この部分に起伏を設け、光を反射する部分と、陰の部分とを作って上下方向の陰影を生み出すことで、ホイールアーチ周辺の造形に緊張感をつくり、ホイールがフェンダーからグンと張り出しているように見せています」

精緻なだけでなく抑揚のあるアーキテクチャー

「これまでは欧州や米国と比較すると、日本ではどちらかというと精緻感のある静かなデザインが好まれてきました。しかし素直で精緻なデザインは、安心感はあっても人の心に感動を呼び起こすような動きのあるものにはなりません。最近は、一時期ヒットしたミニバンの反動もあるのでしょうか、日本でもより動的で、表情のあるデザインが受け入れられるようになってきています。そこで、レヴォーグではエクステリアデザインに落差や抑揚を設け、立体造形が持つ魅力を思い切り与えようと思いました」
と、小林は言っている。具体的にはどのようなデザインを作り出していったのだろう。

「まず、スバルらしさの表現として、エッジの効いた空気を切り裂くような全体のダイナミックな塊感を与えようと思いました。シンプルで力強いモチーフを、フロントのヘキサゴングリルを中心に立体構築(アーキテクチャー)として造形に織り込み、フロントはワイド&ローなスタンスとして信頼、安全、安心を感じさせながら、新しいスポーツツアラーのイメージを表現しました。リヤはルーフラインを後方に向かって大胆に下げ、リヤゲートにも角度を持たせてスポーティで流麗なシルエットを実現しています。押し出しが強く、存在感のあるブリスターフェンダーはメリハリの効いた立体造形になっています。ヘッドランプはターンランプを外に出して独立させたことでより精悍で眼力を強調するホークアイ表現としました。リヤコンビランプは横基調のコの字形状とその間をメッキのガーニッシュでつなぎ、存在感とワイド感を強調したデザインとしています」

DLOーーードライバーがカッコ良く見えるサイドウインドゥ

 クルマのデザインの良しあしを左右するもうひとつの重要な要素がある、と小林は付け加えた。それが、DLOである。
「Day Light Openingの略語なのですが、クルマのデザインにおいてはサイドウインドゥを含めたガラス開口部のグラフィカルな表現を意味します。ボディに対してのサイドウインドゥのバランスやデザインをどう構成していくかによって、クルマの印象は大きく変わります」
と小林は言っている。

「ドライバーとDLOというのは、絵画と額縁の関係に似ています。絵画や写真にとって、額縁やフレームというのはとても大切です。額縁を変えると、その中の作品の印象まで変わってしまいます。同様に美しいDLOを持っているクルマは、中に乗っている人を美しく見せます。スポーツカーであるからには、所有する喜びが感じられるだけでなく、乗っている姿が美しく見えるクルマでなければなりません。レヴォーグではバランスの良いDLOを与えることで、通りですれ違ったときに思わず振り返って見直してしまうような、そんな魅力をそなえたエクステリアデザインに仕上がったと自負しています」

消えたカーゴルーム

 車両の左右いずれかのフロントコーナーにクルマに背を向けて立ち、真っ直ぐ前方に5歩ほど進む。その位置で振り返って車両の全体像を眺めてみよう。
「この位置から全体を眺めたとき、ワゴンかセダンか、スリークォーターからは分からないクルマ、荷室の有無が分からないようなクルマ。カッコ良いデザインのクルマにはそういう特徴があります」
 小林に言われて改めてそのポジションからレヴォーグを眺めてみると、確かにCピラーから後方がスッと空間に溶け込んでカーゴ部分が消え、ワゴンであることを感じさせない。改めて、先に小林が語っていたようにリヤへ向けてルーフを下げ、サイドを絞り込んでいることが分かる。
「東京モーターショーで初めてレヴォーグをご覧になった方は “スバルがここまでやるのか”と驚かれていました。同時に、エクステリアの印象からかなり荷室が狭くなっているだろうと思われたようです。しかしながら、設計スタッフの努力や工夫によって、ゲート開口部は高さ、広さともに4代目のレガシィと同サイズとし、荷室容量はそれを上回っています。今回はエクステリアデザインを中心にしてお話させていただきましたが、実際にはインテリアも含めた私たちデザイナーだけでなく、設計スタッフも一緒になって、“SUBARUが持っているパッケージングの限界の中で、どれだけ美しいクルマができるのか”というテーマにチャレンジした結果、レヴォーグの美しいスタイルが完成したのです」

 レヴォーグを開発するにあたってSUBARUのエンジニアたちには、共通する思いがあった。それは“お客様に所有する悦びを味わっていただきたい”ということ。だからこそ、走りの良さやユーティリティと同様に、エクステリアデザインの美しさやインテリアの質感の高さについても、理想に向かって妥協のない開発を続けたのである。
 小林がチーフデザイナーとして腕をふるったのは、4代目インプレッサ、SUBARU XVに続いて、レヴォーグが3台目となった。
「インプレッサ、SUBARU XVの時にも我々が目指す『安心と愉しさ』をお客様に届けられたのではないかと思いましたが、今回もそれを強く意識して仕事を進めてきました。ブランドでモノの価値を評価するのではなく、本質を見極める目を持っているお客様に、じっくりと吟味していただきたいですね」
 “自動車のデザインは一生の仕事”と言う小林は、自信に満ちた表情で、そう言った。

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