開発ストーリー

FB16“DIT”エンジン 篇

SUBARUの総合力が生み出した、レギュラーガソリン仕様BOXER DIT

※この開発ストーリーは、2014年10月1日に掲載されたものです。

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1.6リットル DITエンジンの挑戦

SUBARUの総合力が生み出した、
レギュラーガソリン仕様BOXER DIT

佐々木 礼氏

 「FB16という型式名称は付いていますが、今回のFB16“DIT”は、インプレッサに搭載されたFB16NAエンジンと比較すると、すべて専用で開発したと思っていただいて結構です」

 レヴォーグに新たにラインアップされる1.6リットル直噴ターボ“DIT”エンジンのとりまとめを担当した佐々木礼は、そう言っている。NAエンジンとは要求性能が全く異なる直噴ターボエンジンを造るため、『専用設計』はむしろ必然であった。DITは、NAエンジンよりも高出力となるため、筒内圧が高くなる。そのため、各パーツを従来のFB16 NAエンジンの延長で設計するのではなく、すべてをDITエンジンのために専用設計としたのである。FB16NAエンジンと共通の部品はクランクシャフトぐらいであった。そこまでして、FB16NAエンジンを直噴ターボ化した理由について、佐々木は次のように述べている。 「ターゲットとしたのは、レガシィの2.5リットルNAエンジンと同等以上の性能を出すことでした。さらにレギュラーガソリン仕様でそれを実現することも大きなテーマでした」

 環境性能と動力性能とを両立させるため、欧州車が小排気量エンジンとターボチャージャーを組み合わせた ダウンサイジングターボという発想のエンジンをラインアップするようになったが、いずれもハイオクガソリン仕様。 SUBARUがレギュラーガソリン仕様のDITエンジンを開発すれば、それは現在の自動車マーケットにおいて、大きなアドバンテージになる。
「もうひとつ、優れた燃費性能も1.6リットル“DIT”エンジンのテーマでした。エンジンだけでなく、クルマ全体で細部に至るまで、燃費向上のための取り組みを徹底し、最終的にはJC08モード燃費17.4㎞/リットル(オプション装着により車両重量が1540㎏以上となった場合は16.0㎞/リットル)という燃費性能を実現しました」

 これらのすべての目標をクリアし、さらに気持ちの良い走りを提供する1.6リットルエンジンを新開発するのは、SUBARUの技術陣にとっても、決してやさしい道のりではなかった。

ガス流動を極める

TGV (Tumble Generation Valve)

 「エンジンを設計する際、私たちが最も大切にしているのが、ガス流動です。 特に燃費性能を重視した第三世代BOXERエンジンであるFA/FB型エンジンに関しては、より細部にまで神経を遣ってスムーズで無駄のないガスの流れを作っています」
 と佐々木は言っている。

 燃料を無駄なく燃焼させるためには、理想的な混合気を作らなければならない。そのためには、混合気の吸入から点火の直前まで、ガス流動を保つことが重要になる。噴射された燃料が点火プラグの中心から壁面に向かって一気に無駄なく燃え広がっていくためには、予め、緻密に計算して作られたガス流動(タンブル/縦渦)を形成しておかなければならない。

 「机上のシミュレーションで見通しを立て、実機を製作して実験を行ないます。流動解析については、これまでのノウハウの蓄積もあって、かなり精度が上がっています。とはいえ、計算だけでは解明できないところもあり、実験結果に基づいてパーツに落とし込んでいきました」

 理想的なタンブルを形成するために特に重要な役割を果たすのが、吸気ポートやシリンダーヘッド、そしてピストン冠面の形状である。
 「独特なピストン冠面の形状と、内部に隔壁を設けて吸気バルブの直前まで二つの部屋に仕切った吸気ポートは、DITエンジンならではのものです。よりしっかりとしたタンブルを形成するため、解析に加えて、エンジニアの柔軟な発想力を活かして開発しました」

 外気を各シリンダーに導くインテークマニホールドの途中にTGV (Tumble Generation Valve)が取り付けられている。TGVの下にはポート隔壁があり、シリンダーヘッドの吸気バルブ直前までつながっている。

 「TGVの目的は、冷態始動時やアイドリング時など、運転領域に応じて必要なタンブルを発生させることです。よりタンブルが必要な時にはこのバルブを閉め、一方の通路をふさぐことで空気の流速を高めてやり、しっかりしたタンブルを形成します。一般的には、エンジンに対して内側の通路をふさぎ、外側の通路からシリンダーに空気を送るのですが、あるスタッフの発想でそれを逆にしてみたところ、このFB16“DIT”エンジンに最適なガス流動が得られました」

 固定観念にとらわれず、細かいことでも可能性があればトライしてみるというのは、スバル開発陣の伝統的なスタイルだ。

燃費向上を求めて部門を超えて力を結集

 「1.6リットルDITエンジンでは、他にもさまざまな取り組みをしています。ポンプ損失を低減するのに有効なEGR(Exhaust Gas Recirculation:排気再循環システム)は、EGRクーラーの容量を拡大し、EGR温度をより低下させて、充填効率を高めています。また、摺動部の抵抗を極力低減させ、機械損失を低減させました。たとえば、燃焼室への吸気や排気を制御するバルブのステム部(軸部)はラッピング加工による鏡面仕上げとし、摺動抵抗を減らしています。燃費低減率として、一つひとつのアイテムの効果は僅かなものかもしれませんが、われわれが持っている技術のすべてを注ぎ込み、積み重ねていくことで、目標とした高い燃費性能を実現しました」

 佐々木は、燃費の低減という目標は、さまざまな取り組みや工夫が結集した総合力によって達成されるものだと言っている。

 「今回最も難しかったのは、DITをレギュラーガソリン仕様にすることでした。ノッキングと呼ばれる異常燃焼の耐力が高いハイオク仕様とすれば、パフォーマンスも燃費も上げることができます。しかし、国内専用モデルとなるレヴォーグの専用エンジンと考えたときに、それではお客様にSUBARUらしい新たな魅力をご提供することができません。レギュラーガソリン仕様を実現するためには、先に触れたTGVをはじめ、すべてのパーツを最適設計しなければなりませんでした」

 レヴォーグではエンジン以外の部分でも、トランスミッション内の撹拌抵抗の低減、走りと転がり抵抗を高次元でバランスさせたタイヤ、空力とデザインを両立したホイールなど、あらゆるパーツで少しずつ燃費改善の取り組みがなされてきた。設計は設計だけ、実験は実験だけという枠の中で考えるのではなく、設計部門、実験部門のスタッフが一緒になって、さまざまな議論を重ねることで開発は進められた。

造って走り、そして議論する

 佐々木は、開発の過程で実際に試験車を走らせる時間をとても大切にしている。栃木県佐野市にあるSUBARUのテストコース『スバル研究実験センター』では、走行ライセンスを持っていないと走ることはできない。本来はクルマを走らせて評価する実験部門のスタッフの職場なのだが、佐々木を始めSUBARUの設計者は、ここのライセンスを取得している者が少なくない。

 「クルマは乗ってみて初めて判ることがあるのです。自分が設計したパーツが乗り味にどのような影響を与えるのか、クルマに自分が設計したパーツが組み込まれたときは、一刻も早く自分で乗って感じてみたいという気持ちを皆が持っているのです」

 ひとつのパーツが、クルマにどのような影響を及ぼすのか? 本当に価値があるのか?

 SUBARUの開発エンジニアは、机上だけでなくハンドルを握ってそれぞれが感じたことを交換しあいながら、一つひとつのパーツ設計について、濃密な議論を重ねていく。また、新しい取り組みやアイテムに関しても、開発者本人が信念を持って導入しようとすれば、比較的容易に実現することができるのも、SUBARUの良いところだと佐々木は言っている。

 今回の開発を振り返って佐々木が語った次の言葉は、そんなSUBARUのクルマづくりの真髄を表していると言ってもいいだろう。

 「私たちはエンジンの専門家ですが、エンジンだけを作ったつもりはありません。皆と力を合わせてレヴォーグというクルマを作ったのだと思います」

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