開発ストーリー

衝突安全 篇

エンジニアが語る、SUBARUの衝突安全

※この開発ストーリーは、2010年7月1日に掲載されたものです。

「ただ試験のためでなく」

SUBARUがめざすリアルワールドの全方位衝突実験安全

 国土交通省と独立行政法人自動車事故対策機構(NASVA)が行なう日本の自動車アセスメント(JNCAP)は、前期・後期とに分けて実施される。今年度のJNCAPの前期に行なわれた試験結果は昨年公表され、レガシィ(2009年モデル)は、ほとんどの試験項目で最高評価を得た。SUBARU車は09年度のJNCAPでもエクシーガとフォレスターが『自動車アセスメント優秀車』に選ばれ、08年度はインプレッサが『自動車アセスメントグランプリ』に選出されている。

 また、米国のハイウェイ安全保険協会(IIHS)が行なった2010年のアセスメントでは、試験を受けたSUBARUの車両すべてが最高評価である『トップ・セイフティ・ピック』を獲得した。同試験では、今回から厳しいルーフ強度試験が新設されたこともあり

『トップ・セイフティ・ピック』獲得モデルは前年度の94モデルから27モデルに減少した。そのため、2年連続して試験を受けた全てのモデルが『トップ・セイフティ・ピック』を獲得したのは SUBARUだけであった。

 自動車の安全に対するユーザーの意識や社会的な関心の高まりを受けて、現在はどのメーカーも衝突安全の技術開発には、最大限のエネルギーを注いでいるはずだ。そのような厳しい競争の中で、何故SUBARUのクルマが第三者機関が行なうアセスメントで高い評価を得られるのだろう。その謎を解くために、群馬県・太田市にあるスバル技術本部に出かけた。

「何を想定しているのか、実際に起こるどんな事故を
模しているのかをきちんと考えろ」

「アセスメントの評価でいくらよい成績をあげても、リアルワールドでお客様に納得していただけるような安全性能を獲得できなければ意味がないんです」

 SUBARUの衝突安全性能は、何故各国のアセスメントで高く評価されているのか?という問いに対して、冷静な表情でそう答えたのは、スバル技術本部車両研究実験第2部を率いてSUBARU車の衝突安全技術を開発している奥野竜也だ。この言葉は、彼が常日頃からスタッフに対して口にしている言葉でもあった。

 試験場という限られた条件の下で良い成績を出すのはそれほど難しいことではない。実際の事故は予期しないときに予想もしないような形で起こる。SUBARUが目指すのはそのような時にきちんとした衝突安全性能を発揮できるクルマをつくることだ。

「アセスメントの試験を受けるときも、それが何を想定しているのか、実際に起こるどんな事故を模しているのかをきちんと考えろ」と、奥野はスタッフに言っている。アセスメントで実施される試験項目が増えたり、内容のレベルが上がったりしたときにでも、十分な評価を得ることができる理由がそこにある。


奥野 竜也 氏

「パワーユニットや足回り部品にいたるまで、
あらゆる部分に乗員を守るための工夫を施しています」

 SUBARUの安全思想は「全方位安全」だ。フロント、サイド、リヤ、そして斜め方向などあらゆる方向からの衝突に対して効果的に衝撃を吸収し、高い強度を持つキャビンで室内の乗員を守る。この考え方でつくられたのが“環状力骨構造”である。
 開発に際しては、世界各地で実際に発生した事故の情報を集めて、分析する。さらにさまざまな観点からそれらの事故を模擬した衝突状態を作り出して、試験を行なう。
 世界にはその国の交通事情を反映した特殊なタイプの事故もある。たとえばピックアップトラックの人気が高い北米では、より高いポジションでの側面衝突を想定した対策を施さなければならない。対して単独で立ち木などに衝突するようなケースが多い欧州では、側面衝突の形態もまた北米とは異なる。これを反映して、北米と欧州で行なわれる自動車アセスメントでの評価方法もまた異なってくる。

「スバルの環状力骨構造は、どのような状況に対してもキャビンをしっかり守ることが一番重要だと考えています。さらに内装部品はもちろん、パワーユニットや足回り部品にいたるまで、あらゆる部分に乗員を守るための工夫を施しています」

 その中には、当然、アセスメントの評価対象になっていない要素も多く含まれる。冒頭に触れた米国のアセスメントで新設されたルーフ強度という評価項目についても、SUBARUはアセスメントに組み込まれる前から既に対策を施していた。SUBARUが目指す「全方位安全」という思想の中には、このように「あらゆる国で、SUBARUに関わるすべての人に対して」という意味も込められている。その中には歩行者保護という観点での技術開発も含まれる。

歩行者保護性能評価で最高のレベル5

エンジン前項が低い水平対向エンジンを搭載することで、フロントフードとの間にスペースを確保。

レガシィ(2009年モデル)は、NASVAの歩行者保護性能評価で最高のレベル5を獲得した。ボンネットの各エリアに頭部を模した球体を衝突させ、その衝撃を計測するこの試験は、自動車アセスメントにおいてもなかなか高い評価を得にくい項目となっている。それは、フロントフード下にはエンジンやその他の補機類があり、歩行者の頭部がこれらの固い積載物とぶつかることで大きなダメージを負ってしまうからだ。しかし、水平対向エンジンはエンジン房内に十分なクラッシャブルゾーンをとることができるため、レガシィ(2009年モデル)だけでなく、インプレッサ、フォレスター、エクシーガとSUBARUが製造しているすべての登録車がこれまでに最高評価を得ている。

「ボンネットフードは、頭部への衝撃を効率良く吸収できる構造としています。 万が一の衝突の際にはフード裏側の骨組みが折れ曲がるようにして潰れることで、衝撃を緩和します。 また、フードの先端もつぶれやすいクラッシャブル構造としました。」

 歩行者と車両との衝突では、頭部の次に損傷を受けやすいのが脚部だ。SUBARUでは頭部以外にもダミーを立たせた試験を実施し、脚部への衝突に対する評価・対策も独自に行なっている。

「スバルの先人たちが、こんなに昔から
クルマの衝突安全に取り組んでいたことを知り、
またその内容が当時としても世の中の一歩先を行く、
進んだものであったことに驚かされました」

 SUBARUの安全思想は「全方位安全」だ。フロント、サイド、リヤ、そして斜め方向などあらゆる方向からの衝突に対して効果的に衝撃を吸収し、高い強度を持つキャビンで室内の乗員を守る。この考え方でつくられたのが“環状力骨構造”である。
 開発に際しては、世界各地で実際に発生した事故の情報を集めて、分析する。さらにさまざまな観点からそれらの事故を模擬した衝突状態を作り出して、試験を行なう。
 世界にはその国の交通事情を反映した特殊なタイプの事故もある。たとえばピックアップトラックの人気が高い北米では、より高いポジションでの側面衝突を想定した対策を施さなければならない。対して単独で立ち木などに衝突するようなケースが多い欧州では、側面衝突の形態もまた北米とは異なる。これを反映して、北米と欧州で行なわれる自動車アセスメントでの評価方法もまた異なってくる。

「スバルの環状力骨構造は、どのような状況に対してもキャビンをしっかり守ることが一番重要だと考えています。さらに内装部品はもちろん、パワーユニットや足回り部品にいたるまで、あらゆる部分に乗員を守るための工夫を施しています」

 その中には、当然、アセスメントの評価対象になっていない要素も多く含まれる。冒頭に触れた米国のアセスメントで新設されたルーフ強度という評価項目についても、SUBARUはアセスメントに組み込まれる前から既に対策を施していた。SUBARUが目指す「全方位安全」という思想の中には、このように「あらゆる国で、SUBARUに関わるすべての人に対して」という意味も込められている。その中には歩行者保護という観点での技術開発も含まれる。

「先人達が残してくれたSUBARUの
クルマづくりへの真摯な思いを受け継ぎたい」

 「いま、各国のアセスメントで高い評価をいただいているのは、SUBARUが考える“リアルワールドでの全方位安全”という開発プロセスにおける、現段階でのひとつの結果だと受け止めています。日進月歩の衝突安全の技術は、すでに新しい次元に入っています。これからは従来のように衝突安全だけを独立させて考えるのではなく、アイサイトのようなプリクラッシュセイフティの技術や、事故を回避するアクティブセイフティテクノロジーと密接に結びついた技術開発が行なわれるようになるでしょう。先人達が残してくれたSUBARUのクルマづくりへの真摯な思いを受け継いで、これからも皆様に安心して乗っていただけるようなクルマを造っていくことが、私たちの最大の目標です」

 淡々と語る奥野の表情からは、高い評価を得たことに対する喜びや安堵といった様子は少しも感じられない。彼には蓄積した知識と情報、さらに新たな技術を用いて開発するべき、次のステージの衝突安全ボディが見えているからだ。

 現在太田市の本工場の中には、奥野をはじめとするSUBARU衝突安全開発チームをサポートする新たなハードウェアとして、よりリアルワールドに近い衝突状態を再現し、緻密な計測を行なうことができる最新鋭の大型衝突試験棟が建設されている。

 常に最善を目指して歩み続けるSUBARUの衝突安全に対する取り組みは、決して止まることがない。
 4月21日、東京・秋葉原で国土交通省と独立行政法人自動車事故対策機構(NASVA)が行なった自動車アセスメントの結果が発表された。後期にテストを受けた車両の結果もプラスして、今年度試験を受けた12台の車両の中で、レガシィは最も高い評価を受けたクルマとして『平成21年度自動車アセスメントグランプリ』を受賞した。

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