2030年死亡交通事故ゼロに向かって進化した
レガシィ アウトバックの衝突安全性能メーカーを知る | 2022/10


スバルグローバルプラットフォーム
和田:スバルグローバルプラットフォームは、前面衝突に対してはキャビンより前側が潰れることで荷重を吸収するクラッシュゾーン、キャビン側はクラッシュゾーンで吸収しきれなかった荷重に耐えて乗員を守る強固なキャビンゾーンとしています。クラッシュゾーンでは左右に配置されたフロントフレームが折り畳むようにして潰れることでエネルギーを吸収します。その際、中空のフレームの太さや内側の形状、板厚、配置を緻密に計算し、どんな方向からの荷重に対しても同じように潰れて効率的にエネルギーを吸収できるようにコントロールしています。また、衝突時にはエンジンはキャビン下側に滑り込むように脱落させることで、キャビンゾーンへの侵入を抑制します。フロントフレームが段階的に折り畳まれていくモードと、エンジンが移動する動きを連動してコントロールすることで、衝突時の減速Gを抑制し、乗員への負担を軽減しています。
小川:側面衝突に対しては、室内空間の変形を抑えて生存空間を確保するというのが基本スタンスです。その際重要な役割を担うのがセンターピラーです。レガシィアウトバックのセンターピラーはテーラード・ウェルド・ブランクという工法技術で、異なる特性を持つ2種類の鋼板を溶接した部材でできています。乗員の腰より上のエリアには軽くて強度の高い高張力鋼板を用いて侵入量を抑え、腰から下の部分にはある程度の柔軟性を持った部材を使い、破断させずに安定して変形させるように変形モードをコントロールしながら最小限の変形でピラー全体の侵入量を低減しています。また、ピラー下部のサイドシルとの結合部は狭いピッチでスポット溶接を行なって負荷を分散し、破断しないようにしています。さらに、あらかじめボディのインナーフレームを組み上げてからアウターパネルを組み付けるフルインナーフレーム構造を採用し結合構造を連続的にしたことで、サイドシルのボディ側への侵入を抑制する効果を発揮します。

+αに秘められた相手への思い
和田:※2030年に死亡交通事故ゼロを目指すというSUBARUの目標実現に向けて、今後アイサイトの先進運転支援システムなどADAS(Advanced Driver-Assistance Systems,先進運転支援システム)を圧倒的に進化させていきます。それでもADASだけですべての事故形態に対応できるわけではなく、最終的に避けきれなかった衝突事故に備えてボディの衝撃吸収性能を高めることが必要です。一方、これから電気自動車が増えて車両重量が増加することを考慮すると、衝突時にボディで吸収しなければいけないエネルギー量は年々増えていくものと想定しています。そこに対応するためには、先にご説明したスバルグローバルプラットフォーム+αの構造が必要でした。その+αに相当する部材として、今回レガシィ アウトバックに追加採用したのがセカンドロードパスです。
※SUBARU車乗車中の死亡事故およびSUBARU車との衝突による歩行者・自転車等の死亡事故ゼロを目指す。
これは、従来のスバルグローバルプラットフォームのフロント部分の下部に鉄製のロアビームを追加し、そこからサイドフレームとをつなぐように下部に追加した左右のサブフレームで構成されます。この空間は排気管レイアウトや前輪の切れ角、最低地上高に影響する場所ですから、フレーム形状と配置には特に気を遣いました。
セカンドロードパスは一定の荷重が加わると変形してエネルギーを吸収します。これにより衝突初期のエネルギー吸収量を増やしています。従来のフレームと連携して衝突荷重を分担することで、より大きなエネルギー吸収量を確保することができます。また、衝突時に相手車両への加害性を軽減するという役割も担っています。衝突試験で使用したアルミハニカム台車を比較すると、従来は部分的に強い力が加わって大きな損傷があるのに対し、セカンドロードパスを用いたボディでは相手車両に対してもより平均的、平面的に圧縮させるように制御されていることが分かります。

※こちらの記事は2022年10月号に掲載した内容です。


- 小川 祥 (写真左)
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株式会社SUBARU 技術本部 車両安全開発部 衝突安全第四課
オーストラリアメルボルン生まれ。3歳頃には広島に転居し、小学生から大学まで千葉県千葉市で暮らす。親がSUBARU好きだったため、常にSUBARUを身近に感じて育ちクルマ好きとなる。大学時代にはクルマのブレーキについて研究。心地よいブレーキとは何か?を考える。自動車メーカーで働くなら好きなSUBARUと思い、SUBARUに入社。
- 和田 芳雄 (写真右)
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株式会社SUBARU 技術本部 車両安全開発部 衝突安全第二課
群馬県太田市生まれ。小学生から大学まで野球を楽しむ。小学生時代にはリトルリーグの太田ボーイズに所属し、年次は異なるがその後甲子園やプロ野球でも活躍した正田樹選手、一場靖弘選手らと共に汗を流した。大学時代、二年生から軟式野球に移り、最高成績は全国ベスト4。今もたまにSUBARUのメンバーと共に草野球を楽しんでいる。