待望の新型フォレスターをデザインの進化から徹底解剖
開発責任者に聞く“デザイン”から生み出されたフォレスターの真髄
メーカーを知る | 2025/05

新型フォレスターが、ついに今年4月17日発表となった。初代の誕生から数えて6代目、先代から7年目のフルモデルチェンジを果たしたフォレスターを今回の開発の重点といえる“デザインの進化”から追求する。新型フォレスターはいままでと何が違うのか、何を大切に開発されたのか開発チームの責任者として全てを取り仕切ったプロジェクトゼネラルマネージャーに直撃インタビューで迫ると、そこには常に進化をつづけるSUBARUらしさ、フォレスターらしさがあった。
デザインからの開発にSUBARUが初めて挑戦
使い手のライフスタイルに寄りそう乗用型SUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)として開発されたフォレスターは、SUBARUのラインアップの中でもど真ん中の正統派SUVだ。
「もともとSUBARUのお客さまは好奇心旺盛でアクティブなライフスタイルの方が多く、以前からSUVを支持してこられました。加えて、現在はクルマを選ぶ際、SUVが当たり前の選択肢になりました。
新型フォレスターは、若い世代のファミリー層を中心に、初めてSUVを購入される方でも一目で『これぞSUBARUのSUV』と、その価値を感じとってもらえるようなものにしたかったのです」と、株式会社SUBARU商品事業本部の只木克郎プロジェクトゼネラルマネージャーは新型誕生の背景を語る。
「SUVとしての価値、クルマの放つ個性が外観デザインからダイレクトに伝わるようにしたい。そのために、“堂々たる安心感ある佇まい-乗員が守られ、かつ、安心して、どこへでも行けそうな、The SUV-”というコンセプトワードをデザインで表現する、つまりクルマをデザインから始めることに挑戦しました」

従来、SUBARUでは技術的な要件を寸法に落とし込み、デザイナーは寸法的な制約の中で新しいクルマのデザインを創造する方法をとってきた。寸法的な制約とは衝突安全、視界、空力といったもので昔も今も大きくは変わらない。只木には、この制約の中でデザインを始めると、クルマとして進化したとしても見た目は先代と変わらない、変化の乏しいものになってしまうのではないかという懸念があったという。何かやり方を変えなくては……只木は思い切って「デザインから開発を始めてみよう」とプロジェクトチームに提案した。これはSUBARUのクルマづくりの歴史において、初めてのチャレンジだ。
「とはいえ、SUBARUのデザイナーは常に寸法的な制約の中で新しいデザインを生み出す仕事のやり方をしてきているので、『自由につくる』という発想からスタートしても制約を意識しながら仕事をしてくれるんですね。それでも、その取り組みから制約を超えた意匠がさまざまな部位の細部に生まれていきました。そしてそれが今回の開発でデザイナーがつくりたいもの、大事にしたいことなのだろうと解釈し、どうやって技術的な要件と折り合いをつけていくかというところに一番、労力を費やしました」
乗る人全員の安全を第一に考えるSUBARUのクルマづくりは、技術的に求められる要件が厳しいと容易に察せられる。これまでは、求められる性能を定量値に落とし込み、寸法的な制約を設けることにずっと力を注いできた。そして、それがSUBARUらしさでもあった。しかし、と只木は続ける。
「見方を変えると、従来のやり方を疑ってかからずに続けてきたんです。お客さまの期待には応えなくてはなりませんし、決して機能、性能を譲るわけではありません。ただ、これまでの考え方が正しいのか、このやり方でいいのかという議論を今まではあまりしてこなかった。でも今回はそんな議論を重ねました」
デザインが技術的要件にもたらした効果
『デザインからつくるクルマ』として開発がスタートしたフォレスターは、新しい議論を重ねるうちに思いがけない収穫を得ていく。技術的な要件自体もさらなる進化の方向に向いたのだ。最たる例が、視界。これまでのフォレスターではドライバーから真正面に見える視界の範囲を数値化し要件としていた。新型はデザインをフックに全ての議論が始められたので、ドライバーは真正面だけではなく周囲全体を広く見ているという着眼のもと、視界全体の見やすさをデザインから工夫できるのではないかという発想が生まれ、具現化されていった。
「ドライバーの目線から見るとどうしても凸凹が見えていました。例えばワイパーのブレードの付け根などが視界に入ると、無意識に形をもったノイズとして目が行きがちになり、注意力の散漫につながってしまう。単に見える見えないだけでなく、そういったノイズの要素もできるだけ取り除いて、見ないといけない方向に注意が向くような視界のつくり方をしました。これが、非常に難しかった。
現在は3D技術やバーチャルリアリティ技術が活用できるので、立体画像につくり上げた仮想空間を使って評価や検証ができるようにはなっていますが、人間の目の機能と脳の処理能力にはとても追いつかない。できるかぎりはやるんですけれど、人間の目で見ている状態とはまったく同じではない。この考え方でつくれば視界はよくなっているはずだとやっていくんですが、確かめる術はなく、クルマが完成したときに初めて分かる。できてしまうと、もう直せない。新型が完成して乗ってみたとき、思っていたとおりの視界のよさが実現されていて、これは本当に嬉しかったですね」

プレミアムを軸に横幅を広げたグレード構成
こうして堂々とした佇まいのデザインに包まれた新型フォレスターには、Premium、SPORT、X-BREAKと、3つのグレードがラインアップされている。それぞれ、どんなところを目指して完成に至ったのだろう。
「フォレスターはSUVですから、アウトドアユースか都市生活ユースかでいうと基本的にアウトドア寄りです。Premiumを中心にしながら、SPORTは都市生活寄り、X-BREAKはさらにアウトドア寄りに振り、同じSUVの中で商品の幅を広げた構成になっています。よくある松竹梅と表されるような価格に応じて装備が豪華になるといった縦のグレード構成ではなく、お客さまの使い道、ライフスタイル、家族構成に応じて選んでもらいたくて、グレード構成を横に広げました。ユニークなキャラクター付けをしたのはSPORTとX-BREAKの2つであり、新型フォレスターのコンセプト、やりたかったことを素直に具体化したのがPremiumです。ど真ん中のSUVとして逞しさ、走破性の高さが一見して分かるような外観を目指しました」


クルマの重要な選択基準とされる燃費に対しては、ストロングハイブリッドが搭載された。新型フォレスターは2.5L直噴エンジンに2つのモーターとバッテリーを組み合わせたストロングハイブリッドと、1.8L直噴ターボエンジンの2つのパワーユニットをラインアップ。パワーユニットの特性に合わせて、それぞれ専用の足回りチューニングも行っている。
「そもそもターボと、バッテリーを積むハイブリッドでは数十キロという単位で車両重量が違い、足回りそのものは分けて開発する必要がありました。ならば、味付けも変えようと。ターボと比べるとストロングハイブリッドは少し滑らかな乗り心地で、路面の継ぎ目を走ると下からコツコツ突き上げてくる振動をうまくいなしてくれるようなダンパーにしているので、上質に感じてもらえるのではないかと思います。
ストロングハイブリッドは高出力モーターを使っているため、レスポンスがよく低速域のトルクコントロールがしやすいといった特徴があります。そのため走り出しの滑らかさや、エンジン走行時にモーターアシストをプラスした力強い走りなど、中低速域で気持ちのよい走りが感じられます。ターボは高速域での加速の伸びがよく、軽快でパワフルな走りの愉しさを味わえることが特徴です。ターボの基本的なスペックは旧型と変わっていないのですが、新型はクルマそのものが進化しているので、アクセルを踏んで加速していくときに聞こえてくるエンジン音などの騒音が抑えられ、乗り比べれば新型の快適さや走りの質感の高さを感じていただけると思います」

モデルチェンジしてもフォレスターらしさは不変
新型フォレスターは正統派SUVというポジションを強く意識して開発されたことがよく分かる。そうすると、数ある他のSUVとは一線を画す“フォレスターらしさ”はどのあたりに込められたのか気になるところだ。
「フォレスターらしさとはずばり、扱いやすさです。以前からフォレスターはSUVにしては外寸がちょっとコンパクトで取り回しがしやすいと評価をいただいています。狭い駐車場でも入れやすいといったところがメリットだと思っています。外寸は小さいですが、室内空間はというと実は同じカテゴリーのクルマの中でトップクラス。コンパクトで、車内は広く、すごく扱いやすいSUVなんです。最低地上高もきっちりあって、アプローチアングルもちゃんと確保できているので、例えば出かけた先のキャンプ場などで本当に最後の目的地まで辿り着けるようになっている。扱いやすく期待に応えてくれるクルマというのが誕生以来受け継いできたフォレスターらしさです。フルモデルチェンジしても『やっぱりフォレスターだね』って言ってもらえる“らしさ”を継承することを意識して開発しました」

扱いやすさに関してはユーティリティも重要な要素となるが、新型フォレスターの荷室は至ってシンプルだ。荷室をどういう仕立てにするか検討するとき、乗り手のニーズに合わせると、あれもこれも備わっているべきだと足し算の議論になりがちだが、只木の選択はむしろ逆だった。
「自分としては、実用面はおせっかいなものにしたくなくて。荷室は特に、四角くて何もないのが一番使いやすいと思うんです。だからあまり余計なことはしない。余計なことはしないぶん、使い道に合わせてお客さま自身がアレンジできるようユーティリティナットに純正アクセサリーを組み合わせることで、用途により工夫が広がっていくような仕立てとしました。
新型フォレスターはデザインを強化することから始まりましたが、決して見たことがないような奇抜なクルマをつくるということではありません。手に入れた後にだんだんつまらなくなるものではなく、どちらかというと飽きのこないデザインを意識したんですよ。カタチが決まってもう2、3年経ちますが、いま見ても格好いいなと思いますし、そういうデザインになっていると自負しています。お店で実車をご覧いただき、気に入って選んでもらえたら嬉しく思います」



- 只木 克郎 TADAKI Katsuro
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株式会社SUBARU 商品事業本部
プロジェクトゼネラルマネージャー1995年、株式会社SUBARU入社。入社以来、一貫して設計に従事し、最初に参画したのが初代フォレスターだった。2000年代初頭からおよそ3年半、米国インディアナ州にあるSUBARU Research and Development(SRD)の設計チームに配属となる。中西部の広大な土地で日常の暮らしを送るなか経験したグランドツーリングがその後のクルマづくりに影響を与えることとなった。帰国後、レガシィ アウトバック、5代目フォレスターの開発などを経て、2022年より現職。
Photographs●中井 喜久
※こちらの記事は2025年春号に掲載した内容です。
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