【SUBARU on the Road】茨城県笠間市~栃木県益子町
渡辺慎太郎×レヴォーグ 器とクルマに宿るもの
ドライブ | 2025/12
自動車ジャーナリスト渡辺慎太郎が、レヴォーグGT-H EXのステアリングを握り、笠間と益子へ。レガシィから受け継がれた走りを味わいながら陶芸の里を巡り、器とクルマに宿る"何か"を探す旅。
「器は料理の着物である」は、かの北大路魯山人が残した名言のひとつである。彼は絵画や木彫などでマルチな才能を発揮しただけでなく、陶芸家として特に食用の器にこだわり多くの作品を残してきた。器と料理を一体にすることで、料理の魅力を最大限に引き出すという発想は、日本料理の発展に大きな影響を与えた。
芸術家としての崇高な着想のようにも思えるが、氏の著書である『愛陶語録』の中では「美人に良い着物を着せて見たい心と変わりない」と、人間味溢れる思いを寄せている。
今回、陶芸にまつわる旅の機会をいただいた。果たして陶芸と旅の相棒であるレヴォーグがどのように結びつくのか、まったくわからないまま陶芸の町を目指したのだけれど、旅にはいろんなスタイルがあっていいと思っている。自分なんかは、漠然とした気持ちを抱いたままのほうが、旅先での一期一会をより愉しめるような気がするのだ。
長距離でも疲れ知らず レガシィから受け継ぐ走りのDNA
初代のレヴォーグが誕生したのは2014年だから、いまからもう10年以上も前のことである。発表当時は、日本にワゴンブームを巻き起こした名車レガシィの跡継ぎとして未知数だったところもあった。しかし、二代目となったいまではレガシィが築いたグランドツーリングカーという要素に、時代に相応しい先進の環境性能や安全性を採り入れることで、レヴォーグでしか味わえないスポーツツアラーという独自の乗り味が、多くの支持を得ている。
常磐道を北上していたら、NHKの人気番組『魔改造の夜』を思い出してしまった。「ブランコ25m走」という回で、SUBARUのエンジニアチームが見事優勝を果たしたのだけれど、その時の「真っ直ぐ走らせることは自動車メーカーとして当然」というようなコメントがとても印象的だった。他のチームのブランコは進路を修正するための操舵機構を備えていたのに、SUBARUはそれに頼らずゴールまで走り抜けたのである。
クルマを真っ直ぐ走らせるというのは決して簡単なことではなく、豊富な経験と高い技術力が必要だ。直進安定性はサスペンションの構造やセッティングはもちろん、ボディのデザインや車体の重量配分や駆動力のかかり方など多くの性能要件のバランスに因るところがある。高速道路でのレヴォーグは、まるで線路の上を走っているかのように真っ直ぐ安定的に突き進んでくれる。
実は世の中には真っ直ぐ走らないクルマも少なくない。ドライバーは直進しているつもりでも、無意識のうちにステアリングを動かし修正していたりする。結果としてこういうクルマは、長距離ドライブで予想以上の疲労をもたらす傾向にあるのだけれど、レヴォーグでは修正の必要がないから疲れ知らずで、どこまでもずっと走っていけそうな気分になる。実際、自分が思っていたよりもずっと早く、岩間ICに到着した。
一般道に入ると、両側に栗の木がずらりと並んだ光景が目に飛び込んできた。陶芸の町として有名な笠間は、実は有数の栗の産地でもある。取材当日の東京はまだ夏日だったというのに、笠間には今年もちゃんと秋が訪れていた。
陶芸の里に息づく日用の美とレヴォーグの機能美
「かさましこ」という言葉をご存知だろうか。「かさましこ」とは茨城県笠間市と栃木県益子町を組み合わせた造語で、「かさましこ・兄弟産地が紡ぐ“焼き物語”」として令和2年度日本遺産に認定されている。
笠間市と益子町は山を隔てて隣接するロケーションにあり、古代から焼き物に必要な粘土や水や燃料(木材)に恵まれた地域でもあったという。その証拠に、8~10世紀ころと思われるそれぞれの地域の古い窯跡の出土品には、共通した特徴が見られたそうだ。
18世紀後半になると、笠間藩上箱田村で久野半右衛門が焼き物を始める。これが笠間焼の発祥とされている。19世紀後半には間黒村の寺で教育を受けていた大塚啓三郎が久野半右衛門の窯で陶器の作り方を学び、後に益子で自ら窯を築き、これが益子焼のはじまりと言われている。
笠間焼も益子焼も、明治時代にはすり鉢や土鍋といった日用品が安価で使いやすいと評判になり、東日本を中心に広く流通するようになる。ところが生活様式の変化などにより、「かさましこ」はその存続が危ぶまれる事態に何度も見舞われた。
しかし大正時代末期になると「民衆的工芸」を略した「民藝」という生活文化運動が始まる。それまでの観賞用としての工芸だけでなく、日常の生活品にも美しさを見出そうとする活動で、これを提唱したのが思想家の柳宗悦、そして益子町に定住した陶芸家であり人間国宝にも認定された濱田庄司だった。彼の自宅の一部を活用した「濱田庄司記念益子参考館」では自らの作品だけでなく、彼が世界中から収集した陶磁器や漆器、家具などを見ることができる。
日常での使い勝手のよさと、そこに宿る美しさを、クルマの世界では「機能美」と表現したりする。益子周辺の里山道は、場所によっては道幅が狭く、対向車とのすれ違いに気を遣う場面も少なくない。
そんなときにはレヴォーグのボディサイズと運転席からの視界に大いに助けられる。伸びやかでありながら、いまにも走り出しそうな躍動感のあるレヴォーグのスタイリングは、ドライバーが余計な負担を強いられることなく、安全な運転に集中できる機能美も持ち合わせている。
手に馴染む器のように、思いどおりに走る
笠間焼と益子焼の違いはどこにあるのか。笠間市にある『回廊ギャラリー門』の羽石公子さんによると「笠間焼は、作法にこれといった約束事があるわけではなく、作風が多岐に渡ることが特徴です」とのこと。いっぽうで益子焼は、一般的に自然で素朴な趣のある作風だそうだ。
ギャラリーには確かに多彩な作品が並べられていた。陶芸品に関しては素人だけど、色味や造形だけでなく、手に取ったときの重みや触感も大切だと思っている。目に留まったら両手でそっと持ち上げて、手のひらにしっくり馴染む器に出逢ったときのささやかな感動がたまらない。
クルマのパワートレインやサスペンションやキャビンを料理とするならば、ボディはそれらをきれいに収めた器とも言える。レヴォーグに乗ったときに感じる、しっくりと手に馴染むような感触は、少しだけ陶芸の器に似ているかもしれない。
市街地をゆっくり流している間も、ワインディングロードでステアリングを左右に何度も切り返す場面でも、高速道路への合流でちょっとした加速が必要なときも、レヴォーグはいつも自分の手の内にあるようで、思いどおりの動きを必ずしてくれる。レガシィの時代からずっと引き継がれてきた、SUBARUが大切にしているダイレクト感を実感する瞬間だ。
陶芸品には作者の思いやこだわりが自然に現れるというけれど、クルマにもエンジニアやデザイナーの思いやこだわりが現れるのである。
- 渡辺 慎太郎 WATANABE Shintaro
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自動車ジャーナリスト
1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後、1989年に『ル・ボラン』の編集者、1998年に『カーグラフィック』の編集記者に。2003年からフリーランスの編集者兼自動車ジャーナリストを経て、2013年に『カーグラフィック』の編集長に就任、2018年に再びフリーランスの自動車ジャーナリストとなり現在に至る。2025-2026日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、英国『The Guild of Motoring Writers』会員。
- LEVORG GT-H EX
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全長×全幅×全高 / 4755×1795×1500mm*
最小回転半径 / 5.5m
エンジン / 1.8L DOHC 直噴ターボ“DIT”
トランスミッション / リニアトロニック
駆動方式 / AWD(常時全輪駆動)
タイヤサイズ / 225/45R18*全高はルーフアンテナを含む数値。ルーフ高は1480mm。
今月のルート
常磐自動車道~岩間IC~あたご天狗の森公園~回廊ギャラリー門~濱田庄司記念益子参考館
今月の紹介ポイント
- 回廊ギャラリー門
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住所:茨城県笠間市笠間2230-1 笠間芸術の森公園前
http://www.gallery-mon.co.jp/
TEL:0296-71-1507 - 濱田庄司記念益子参考館
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住所:栃木県芳賀郡益子町益子3388
https://mashiko-sankokan.net/
TEL:0285-72-5300
Photographs●郡 大二郎
※こちらの記事は2025年秋号に掲載した内容です。