星々の軌跡
水平対向エンジン60年の歩み〜Vol.3 第三世代①〜トピック | 2026/07
合理的なFFパッケージングを実現するために開発された、SUBARU BOXERの原点である第一世代EA型。そして、高性能モデルを中心にSUBARUのスポーティな走りを支え、世界のモータースポーツシーンでも活躍した第二世代EJ型。今回はこれらの系譜を引き継ぐ第三世代のエンジンから、FB型、FA20型直噴ターボ:DITの軌跡を辿りましょう。
※各世代の代表的なモデルを紹介しています。また、社名やモデル名などの表記は当時の名称を記載しています。
第三世代(FB型)
環境時代に適応した新世代BOXERの礎
2010年、SUBARUは主力エンジンを実に21年ぶりに全面刷新した。「FB型」の誕生である。
それまでSUBARUの走りを支えてきたのは、1989年に登場した「EJ型」だった。レガシィ、インプレッサ、フォレスターなど数々のSUBARU車に搭載され、WRCでも活躍した名エンジンである。EJ型の魅力は、とにかく気持ちよく回ることにあった。アクセルを踏み込むと、高回転まで一気に吹け上がる。特にターボはSUBARUらしいスポーティな走りを象徴する存在だった。
だが、時代は変わり始めていた。2000年代後半、世の中は「どれだけ速いか」よりも、「どれだけ環境性能に優れるか」が重要視されるようになる。燃費規制は世界的に厳しさを増し、メーカーにはCO2削減が強く求められた。SUBARUも例外ではない。 従来のように高回転でパワーを引き出す考え方だけでは、新しい時代に対応することは難しくなっていた。
そこでSUBARUが目指したのは、街中でも扱いやすく、燃費にも優れ、そしてなによりもSUBARUらしい走りは失わない理想のエンジンだった。その想いを形にしたのがFB型だったのである。
新エンジンでは、内部構造が大きく見直された。従来よりも低回転で力を発揮しやすい設計とし、アクセル操作に対してスムーズに反応する扱いやすさを重視。さらに、エンジン内部の抵抗を徹底的に減らす工夫も盛り込まれた。摩擦を減らし、無駄なエネルギー消費を抑えることで、燃費性能を向上させたのである。
FB型は単純に“燃費だけ”を追求したエンジンではない。BOXERならではの低重心と、滑らかな回転フィーリングという強みはそのまま受け継ぎ、クルマ全体の安定感や運転のしやすさを強化した。つまりFB型は、「SUBARUらしさ」を守りながら時代に適応したエンジンだったのである。
このFB型は多くのSUBARU車に搭載され、その後はe-BOXER(ハイブリッド)や1.6Lダウンサイジングターボなどにも発展。SUBARUにおける、新世代BOXERの幕開けを告げる存在となった。
第三世代(FA20型直噴ターボ:DIT)
新しい高性能BOXERターボの誕生
FB型が実用性と環境性能を追求して開発された一方で、SUBARU車の魅力である「圧倒的な動力性能」と「走りの愉しさ」を、環境性能が強く求められる時代にも受け継ぐために開発されたのが、「FA20型直噴ターボ(DIT*)エンジン」である。
*Direct Injection Turboの略。
2012年に5代目レガシィの大幅改良モデルに搭載されてデビューした。2010年代初頭、世界では「ダウンサイジングターボ」という考え方が広がっていた。大きなエンジンで余裕ある力を出すのではなく、より小さなエンジンにターボを組み合わせ、燃費と力強さを両立させるという流れである。
欧州車を中心に広まり、環境性能と走行性能を同時に求める時代の答えとして注目されていた。実用車だけでなく、ハイパワースポーツモデルにおいても大排気量NAエンジンではなく、より小排気量のターボエンジンを搭載する技術的潮流があった。
こうした環境下で開発されたFA20型直噴ターボには、大きくふたつの特徴があった。まず注目したいのは直噴ターボ技術である。燃料を直接燃焼室の中へ細かく噴射する技術とターボを組み合わせることで、少ない燃料でも効率よく大きな力を引き出し、さらにアクセル操作に自然についてくる滑らかな加速を目指した点も大きな進化だ。
もうひとつのポイントが、ボア×ストロークをスクエアにしたことだ。ピストンの直径と往復する距離(ストローク)を同じ寸法にすることで高回転まで気持ちよく回る感覚と、日常で扱いやすい力強さを両立させている。
そして、このエンジンの力強さを自然な走りに変えるうえで、トランスミッションとの組み合わせも重要だった。SUBARUはリニアトロニックと呼ぶCVTを進化させ、従来のCVTで指摘されることのあった、エンジン回転と加速感のずれを抑えた。アクセルの操作に応じてクルマが素直に前へ出る、そんな一体感を大切にしたのである。
FA20型直噴ターボは、単なる高性能エンジンではない。
環境性能が求められる時代にあっても、スポーティな走りの愉しさを手放さず、小排気量とターボの組み合わせによってダイナミックな加速と安心感をつくり出す。このエンジンにこそ、SUBARUらしい「走りの愉しさ」にこだわった、新しい高性能BOXERの姿が体現されていたのである。
※こちらの記事は2026年夏号に掲載した内容です。