星々の軌跡
水平対向エンジン60年の歩み〜Vol.1 第一世代 EA型〜トピック | 2026/05
BOXERの愛称で知られるSUBARUの水平対向エンジンは、ちょうど60年前の1966年にスバル1000に搭載されて誕生しました。SUBARUのコア技術として今なお進化を続ける水平対向エンジンの軌跡を、世代ごとに振り返ります。
なぜスバルは水平対向エンジンを選んだのか?
スバルのコア技術のひとつとして知られる水平対向エンジンは、量産車としてわが国で初めて本格的にFF方式を採用したスバル1000とともに誕生した。
1960年代、高度経済成長を背景に本格化したマイカーブームにより、人々の注目は軽自動車から小型車へと移行。こうした市場の動向に対応するために開発されたのがスバル1000だった。
開発の出発点となったのはFF方式の採用だ。当時の小型乗用車の主流は直列エンジンを積むFR方式で、スバルでも試作車P-1ではFR方式を採用していた。また成功を収めた軽自動車、スバル360はRR方式だった。
なぜ、スバルはすでに経験のあるFRやRRではなくFF方式を選択したのか?
それは、FF方式こそが新しい時代の小型乗用車にとってふさわしい駆動方式だと判断したからだ。スバル1000の開発を指揮した百瀬晋六の想いを記した記述が『富士重工業50年史 六連星はかがやく』(2004年発行)に残っている。
「P-1でFRをやったが、そのときに感じたのはいかにも非合理的なパワートレーンだということだ。駆動力をフロントのエンジンからプロペラシャフトでリアデフに持っていき、さらにドライブシャフトを経てタイヤに伝えるという駆動経路の長さ。しかも長いプロペラシャフトはやっかいな振動源にほかならない。人を乗せるための乗用車に採用する合理性はない。それに対してRRやFFは、部品点数が少なく、乗員のためのスペースを圧迫することのない、合理的な駆動方式だ」(一部抜粋)
居住スペースを圧迫せず、安全・快適な移動を可能にする、乗る人のことを最優先に考えた駆動方式。それがFF方式 だったのだ。スバル360で完成させたRR方式の成功に甘んじることなく、小型乗用車のさらなる理想形を目指した結果だった。
さらに、当時すでに名神高速道路の建設が開始されており、乗用車は高速化に対応する性能が求められる時代がくるという展望が開発陣にはあった。きたるべき高速時代に高速走行安定性に優れたFF方式はまさに合理的で理想的な駆動方式であった。
では、そのFF方式の良さを最大限に引き出すエンジンとは?
スバルのエンジン開発者たちがたどり着いた結論。それが縦置きの水平対向エンジンだった。水平対向エンジンは直列エンジンに比べ長さを短くできる。したがってオーバーハングを抑えられ居住スペースを圧迫することがない。さらに縦置きのシンメトリカル(左右対称)レイアウトが前後左右の優れた重量バランスを生み出し、重心の低さとあいまって走行安定性の点でも好ましい。もちろん振動の少なさも長所だ。こうした数々の特長はFFの優位性をフルに引き出すことにつながった。
こうして生まれたスバルの第一世代水平対向4気筒エンジン「EA型」には、軽量・コンパクトという優位性を最大限に引き出すための工夫が凝らされていた。
シリンダーヘッドはOHV(後にSOHCを採用)8バルブ構成で、アルミニウム製のシリンダーヘッドおよびシリンダーブロックを採用。またショートストロークとすることで高回転まで軽快に回るスポーティなフィーリングを実現。さらにボアを拡大しやすいという特性をフルに活用することで、その後の排気量拡大に対応することが可能だった。EA型エンジンは、基本設計に大幅な変更を加えることなく長期にわたって第一線で活躍し続けた。
FF方式+水平対向エンジン縦置きというレイアウトはその後、4WDへと発展していく。1972年、レオーネ4WDエステートバンが登場。悪路走破性はもちろんのこと、使いやすさと居住性を兼ね備えた世界初の量産型乗用4WDだ。
レオーネ4WDはその後、セダン、ツーリングワゴンなどボディバリエーションを拡大し、やがて訪れるスキーやキャンプといったアウトドアアクティビティブームを支え、人々を新たなカーライフへと導いた。そのムーブメントを支えたのがEA型エンジンであった。
【エンジン用語解説】
FF:フロントエンジン・フロントドライブ。クルマの前方にエンジンを搭載し、前輪を駆動する方式。エンジンルーム内にエンジン、トランスミッション、デフといった主要パーツを収められる。
FR:フロントエンジン・リヤドライブ。エンジンは前方に搭載し、後輪を駆動する方式。エンジンからトランスミッション、プロペラシャフト、デフを経て動力が後輪に伝わる。
RR:リヤエンジン・リヤドライブ。クルマの後方にエンジンを搭載し、後輪を駆動する方式。駆動する後輪の近くにエンジンを置くことで、プロペラシャフトの必要性がなくなる。
OHV:オーバーヘッド・バルブ。吸気バルブと排気バルブをシリンダーヘッドの上に備え、バルブを駆動するカムシャフトをブロックの中に入れるエンジン構造。プッシュロッドを介してロッカーアームを押し上げ、バルブの開閉を行う。
SOHC:シングル・オーバーヘッド・カムシャフト。エンジンの各シリンダーヘッドに1本のカムシャフトがある方式。1本のカムシャフトで吸気バルブと排気バルブの両方の開閉を担う。
※こちらの記事は2026年春号に掲載した内容です。