星々の軌跡
水平対向エンジン60年の歩み〜Vol.4 第三世代②〜トピック | 2026/07
合理的なFFパッケージングを実現するために開発された、SUBARU BOXERの原点である第一世代EA型。そして、高性能モデルを中心にSUBARUのスポーティな走りを支え、世界のモータースポーツシーンでも活躍した第二世代EJ型。今回はこれらの系譜を引き継ぐ第三世代のエンジンから、FA20型NAの軌跡を辿りましょう。
※各世代の代表的なモデルを紹介しています。また、社名やモデル名などの表記は当時の名称を記載しています。
第三世代(FA20型NA)
低重心を極めた、ピュアスポーツのためのBOXER
2010年代初頭、日本の自動車市場ではハイブリッド車やミニバン、軽自動車が主役となっていた。燃費の良さや実用性が重視され、かつて若者を惹きつけた手頃なスポーツカーの選択肢は少なくなっていた。
それでも、クルマを操る愉しさを求める声は消えていなかった。高価で特別なスポーツカーではなく、日常の中で運転を愉しめるクルマ。アクセル、ブレーキ、ハンドルを操作するたびに、クルマと対話しているような感覚を味わえるクルマ。そうした一台を再び世に送り出そうという共通の想いから、SUBARUとトヨタの共同開発によって誕生したのが、SUBARU BRZ / TOYOTA 86であった。
その心臓部となったのが、自然吸気(NA)仕様の「FA20型」である。WRXなど、それまでのSUBARU高性能モデルのようにターボの力で大きな加速を得るのではなく、エンジンそのものが気持ちよく回ることを大切にした。水平対向エンジンの低重心という特長を最大限に活かし、車両パッケージング全体と一体で開発されたスポーツカー専用エンジンであった。
SUBARU BRZのFA20型NAでも、ボア×ストロークはスクエアレイアウトが採用された。これは高回転まで軽やかに回る感覚と、日常の扱いやすさのバランスを狙ったものだった。単に速さを追うのではなく、ドライバーが自分の意思でエンジンを回し、クルマの動きを感じ取れることが重視されたのである。
また、このエンジンにはトヨタの燃料噴射技術「D-4S*」が採用された。SUBARUのBOXERと、トヨタの燃料噴射技術。それぞれの強みを組み合わせることで、スポーツエンジンらしい伸びやかさと、現代のエンジンに求められる効率の両立を実現している。
開発陣がこだわったのは、エンジンそのものの性能だけではない。SUBARU BRZの低いフロントフードに収めるため、エンジンの搭載位置や周辺部品の配置まで細かく突き詰めた。車体の重心を低くし、コーナーでクルマが自然に向きを変える感覚をつくるためである。
さらに、ドライバーがエンジンの存在を感じられるよう、音にもこだわった。速さの数値だけでなく、踏み込んだときの高揚感。ステアリングを切ったときの素直な反応。FA20型NAは、そうした感覚を追い求めたエンジンだった。環境性能が重視される時代に、あえて運転する愉しさを真正面から掲げたSUBARU BRZ。
FA20型NAエンジンはスペックだけでは語れない、ドライバーとクルマの一体感を追求した新しい時代のスポーツエンジンといえる。
*TOYOTA D-4Sはトヨタ自動車株式会社の登録商標です。
この後、2021年に登場した2代目SUBARU BRZでは2.4Lエンジン「FA24型NA」が開発された。シリンダーブロックのサイズを変えずにボアアップを行うことで、FA20型NAに対してほとんど重量を変えずに排気量を400ccアップ。
これにより全域でフラットかつ太いトルク特性を獲得し、アクセルを踏んだ瞬間からスムーズに加速する扱いやすさを実現。SUBARU BRZの走りの愉しさをさらに高いレベルに引き上げている。
※こちらの記事は2026年夏号に掲載した内容です。