Gears of SUBARU

クルマを動かすギヤ一つ一つに光を当てるように、
SUBARUとSUBARUのクルマを形成する様々な活動や人を
ピックアップしお伝えしていきます。

VOL.02 SUBARUにはテスト
ドライバーがいない?
スバルドライビングアカデミー

エンジニアの運転スキル、テストドライブ時の評価能力向上の為、2015年9月に創設されたのがスバルドライビングアカデミーです。新型SUBARU BRZの開発にも大きな影響を与えたこの活動について、スバルドライビングアカデミーのメンバーとして活躍するエンジニアに聞きました。

本井 雅人
本井 雅人
(もとい まさひと)
技術本部 担当部長/
スバル研究実験センター センター長

1991年入社。SUBARUの研究開発拠点である群馬製作所、パワーユニット開発を担う東京事業所、双方の研究実験部を経験。ドライバビリティ、ブレーキ・VDC、トランスミッションなどの開発に従事する一方、エンジニア育成のためスバルドライビングアカデミー を創設、運営中。2019年よりスバル研究実験センター(SKC) センター長として技術面の情報発信も行う。新旧SUBARU BRZの開発ではTRACKモードの進化にも参画した。

伊藤 和広
伊藤 和広
(いとう かずひろ)
車両運動開発部
車両運動開発第二課 課長

2002年入社。入社以来一貫して操縦安定性・乗心地性能開発に従事している。スバルドライビングアカデミー第1期生としての活動を経て、現在はインストラクター・ディレクターとして後進の指導育成とスバルドライビングアカデミーの企画・運営を実施中。新型SUBARU BRZ開発では、スバルドライビングアカデミーでの経験を活かし操縦安定性・乗心地性能の進化を担当した。

乗って、感じて、考えて、物理にする

スバルドライビングアカデミー設立の経緯を教えてください。

SUBARUには開発したクルマに乗って評価する専任の「テストドライバー」という職種はなく、開発段階でクルマを評価するのは全て「エンジニア」である。

クルマに乗ってその良し悪しを評価するだけでなく、乗って感じたことを理論的に思考した上で図面に落とし込む。この行程を分業せず、同じスタッフが一貫して取り組んでいるところにSUBARUの強みがある。この強みを強固なものにするために、「乗って」「感じて」「考えて」「物理にする」という、エンジニアが持つ能力をさらに磨き、より良いクルマづくりに繋げることを目的に創設されたのがスバルドライビングアカデミーである。

「エンジニアが評価できるレベル 以上に良いものを作ることはできません。つまり、評価能力の向上なくしてクルマの性能向上は難しいと言えます。
そこで、エンジニアの運転スキルとテストドライブ時の評価能力を高めるプログラムを体系化し、高いレベルの評価能力を持つ人財を育成するための取り組みとして始まったのがスバルドライビングアカデミーです。
高速領域や限界領域などいかなる状況下でもクルマがコントロールできるような高度な技能の習得、そして、将来、開発の中核を担うような人財の育成を目的として、おおむね毎年、幅広い部署からメンバーを募っています。」(本井)

SDA=スバルドライビングアカデミー

具体的にはどんな活動を行っていますか?

「運転スキルを磨くトレーニング、運転の心構えを学ぶ座学講習、クルマ全体を知るための車体整備講習などがプログラムには含まれています。運転スキルを磨くトレーニングは、サーキットでレーサーが行うようなものではなく、基礎的で地味な訓練に重きを置いています。その理由は、わずかな性能差を見極め、クルマを評価していくためには、再現性の高さ、つまり何度も同じように運転できる能力が求められるからです。」(伊藤)

「SUBARUの考える『上手い運転』とは、同乗者にも、周囲のドライバーにも不快な思いをさせない『滑らかな運転』です。例えば、山道などで連続したカーブを走行する場合、常に先を予測して滑らかな運転をすることで、同乗者が酔い難く快適にドライブを楽しめます。また、このように常に「急」のつく操作をしないことを心掛けていると『どの操作がクルマの動きにつながったのか』を細分化して感じられるようになります。スバルドライビングアカデミーでもこの考え方で運転スキルを高める訓練を行っています。また、スバルドライビングアカデミー創立当初は講師にプロドライバーを招いていましたが、現在では訓練を終えたメンバーが次の年の講師になり、学んだ知識を教えています。この活動は運転スキル、評価能力を向上させるだけでなく、マネジメント力の育成にもつながっています。」(本井)

「SUBARUは、『安心と愉しさ』を追求し、お客様の笑顔を作る会社になることを目標に掲げています。そんな私たちSUBARUの作り手も笑顔でなくてはお客様の笑顔をつくることはできません。訓練はとても厳しいのですが、愉しみながら取り組むことをモットーにしています。クルマは知れば知るほど、その面白さを実感できますし、メンバー同士で切磋琢磨する中で絆が深くなってきたということもあり、自然とみんなが笑顔で取り組めています。」(伊藤)

最後は人の感覚で磨き上げる

スバルドライビングアカデミーが開発に与えた影響を教えてください。

スバルドライビングアカデミーでテストドライブ時の評価能力を高めることによって、SUBARUの求めている「動的質感」とは何かを具体的に定義付け、それを物理現象に落とし込み、メカニズムで具体化することができるようになった。
具体的には、求める動的質感を「操舵感の滑らかさ」「乗り心地の滑らかさ」「リニアリティのある挙動」「一体感のある挙動」などと定義付け、例えば、「一体感のある挙動」を目指すとき、具体的に何がどのようになっていると、人は一体感があると感じるのかを明確にしていくと、それは数値で測ることができるようになる。スバルドライビングアカデミーの活動はこうしたSUBARUの車両開発方法に変化をもたらしたと言っても過言ではない。

「スバルドライビングアカデミーのトレーニングを通して、『乗って』『感じて』『考えて』『物理にする』というサイクルを短期間に回すことで、従来に比べ、動的質感に代表される『SUBARUらしさ』を数値化できる領域が増えてきました」(伊藤)

「ただし、無機質な物理的理論だけでクルマを作っているわけではありません。数値化できる領域が増えれば、トライ&エラーに費やす時間が減り、より早く合理的に目標性能をクリアすることができます。その分、人の感覚で磨き上げることに多く時間を使えるようになり、より『乗って安心、愉しい』と感じていただけるクルマに仕上げることができるようになりました。」(本井)

初代SUBARU BRZを超えていくために

スバルドライビングアカデミーの訓練では主にFR車であるSUBARU BRZが使用されている。AWD車よりも運転に介入するデバイスが少ない分、運転操作がクルマの挙動にダイレクトに現れやすいSUBARU BRZは運転の基礎技術を底上げするのに最適だ。

「SUBARUは長く、FFベースのAWD車をつくってきましたから、初代SUBARU BRZの開発当時はFR車に慣れているエンジニアが少なく、『リヤが滑った後はどうするのか?』という知見も少なかったので、『滑ったら止める』に重きを置いていました。
しかし、SUBARU BRZでトレーニングを重ねるうちに『滑った先のコントロール』の領域の評価にも力を入れるようになってきたのです。」(本井)

ここまで語られてきたスバルドライビングアカデミーの活動や、訓練にSUBARU BRZが使用されてきたことによるメリットは、新型SUBARU BRZの開発にも現れている。

「スバルドライビングアカデミー設立をきっかけに、これまで以上に部署を超えた協働がしやすくなりました。例えば、雪上での安定性を高めるという課題の解決に向け、従来であればタイヤやサスペンションに関わるメンバーだけで考えていましたが、新型SUBARU BRZの開発では、それに加えて、パワーユニットの担当者や、操縦安定性の性能評価を専門とするスバルドライビングアカデミーのメンバーが協力することで、雪上での安定性とリニアな加速感と言う、相反する性能を高次元で両立させる解を見いだすことができました。こうした取り組みが、新型SUBARU BRZというクルマを大きくレベルアップさせたのです。」(伊藤)

初代SUBARU BRZが創り上げた、スポーツカーとしての価値、その存在感を守りつつ、全方位で超えていくことは開発陣にとっても大きな使命だった。これの実現の背景には、クルマの愉しさを知る人を育てる、スバルドライビングアカデミーの人づくりがある。

スバルドライビングアカデミー直伝!「上手い運転」のコツ

SUBARUの考える上手い運転は「滑らかな運転」

加速度変化が少なく同乗者の身体を動かさず不安や不快感を与えない、また、他のクルマのドライバーや歩行者など、交通社会にいる様々な人にもやさしい運転「滑らかな運転」、それがSUBARUの考える上手い運転です。 安全にもつながる「滑らかな運転」を皆さんもぜひ実践してみてください。

  • できるだけ遠くを見て、運転操作に必要な情報を早く正しく認知する。
    前方のクルマの動き、歩行者の動き、信号の変わり目など、できるだけ広い範囲の状況を早く正しく認知し、得られた情報を踏まえて、ハンドル操作などの運転操作の始動のタイミングを早く、そして操作自体はできるだけゆっくりと行うことで加速度変化の少ない「滑らかな運転」をすることができます。
  • 滑らかな運転の目安
    ハンドル:切り始めるタイミングは早めに。操作はできるだけゆっくりジワーっと。
    アクセル・ブレーキ:かかとをフロアにつけ、親指の付け根付近で踏み、足首を使ってジワーっと操作する。特にブレーキは止まりたい場所に向かって、ブレーキを踏む力=減速度を一定にする。
  • 自車の動きを意識する
    運転中はイメージ通りの動きができているかを常に意識することで、自然と運転に集中でき、漫然運転を避けることができます。

スバルドライビングアカデミー

エンジニアの運転能力、テストドライブ時のクルマの評価能力向上のため、2015年9月に創設。テストコースでの高速走行や濡れた路面での走行、旋回を始め、車体整備講習などクルマのすべてがわかるようになるための訓練が行われている。社内外の安全運転講習の講師を担当している。