家業への誇りを胸に選んだ、“守る”という道。
創業350年の有田焼の窯元で私は、
その気高い生き方に胸を打たれた。

2022.03.22 | #23 Saga Touring /Day4:EXPERIENCE「有田焼 辻精磁社」
私がこれまで旅の途上で出会ってきた職人たちの多くは、新たな何かを作り出すことを至上の命題としていた。ときには無から自身の感性だけを頼りに、またときには先人たちの知識の土台の上に。多くの職人たちは、何を創造するかに心血を注いでいた。
しかし私は有田の町で、また別の価値観に出会った。
それは簡潔に言うならば、守るという生き方。過去の栄華に胡座をかくのではない。自らの祖先が築いてきた歴史に不純物を加えず、次世代に繋げる。それは尊く、果てしない戦いだ。
佐賀県 「辻精磁社」磁器 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
はじめて訪れる有田。通りに面して漆喰塗りの豪壮な建物が連なる町並みは、この地に大陸から磁器が伝わり花開いた400年前を彷彿とさせた。日本における磁器発祥の地。ここでどれほどの人が磁器に人生を捧げてきたのだろう。そんな想いが胸をよぎる。
路地を折れ、細い裏道に進む。表通りには磁器を販売する商店が並び、その一本裏に窯元が連なるのがこの町の構造。目指す『辻精磁社』は、そんな裏道の一角にあった。
窯焼きで使われる材料を積み重ねたトンバイ塀、重厚な門戸、そこに掲げられる「宮内庁御用達」の文字。佇まいを見るだけで、積み重ねられた歴史が感じられる。事前に調べてきた情報によれば、こちらの創業は350年以上前。江戸時代初期、第120代霊元天皇の時代に皇室御用窯元となり、明治の時代まで世襲として皇室に納める磁器だけを手掛けてきたという。
佐賀県 トンバイ塀が建ち並ぶ有田の街並みとレヴォーグ | SUBARU グランドツーリングNIPPON
佐賀県 有田焼 工房「辻精磁社」入口の看板 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
繋がれてきた歴史の重みにやや緊張しながら門をくぐる。
だが出迎えてくれた辻浩喜氏は飄々とした若旦那の雰囲気で私の緊張を取り払ってくれた。
建物の一室に作られたスペースには、この『辻精磁社』の製品が並んでいる。その色彩は、ほぼ青一色だった。さらに目を近づけて観察すると、その線の一本一本に動きがあることが見て取れた。伊万里市の鍋島焼は、始点から終点までが均一な線だった。ここの線は、まるで筆書きの書のような勢いが感じられる線だ。そして青一色でありながら、その濃淡で複雑な絵柄を描き出している。まるで水墨画だ。
「どうぞ手に取ってご覧ください」。
辻氏に促されて、器に手を伸ばす。高価な品だ。再び緊張がよぎる。しかし手にしてみた磁器は、別の発見を私にもたらした。おそろしく滑らかで、まるで吸い付くように収まりが良く、そして美しい。素地の白さが抜きん出ているからこそ、青の美しさが際立っているのが、手にしたことでいっそう理解できた。
「この白さは、先人たちの研究の成果なのですね」。
私が言うと、辻氏は応える。
「有田焼400年の歴史は、より白い器を追求する400年だったのだと思います」。
そしてその白に映える澄み切った青の追求が、辻氏の先祖の使命だったのだろう。有田焼について熱心に質問していると、辻氏が工房を案内してくれるという。お言葉に甘え、工房へと向かった。
佐賀県 「辻精磁社」の美しい磁器 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
佐賀県 「辻精磁社」の皇室に納めていた磁器 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
そこでは何名かの職人が筆を手にしていた。しばらく見学させてもらったが、それは少しずつ、本当に少しずつしか進まない繊細で丁寧な作業だ。合間に辻氏が、工程を説明してくれる。
模様は代々受け継がれる型紙で器に転写する。インクの代わりは、粉末の細かい瓢箪の炭。それを無地の器に押し当てながら丁寧に上からなぞることで、炭の跡が器の上に残るのだ。先人たちが編み出した、手作りで同じものを複数作る方法だ。というのも、皿などは基本的に5枚1組。その一部が欠けてしまったから補充したいという際にも、同様の色、柄を再現する技術が必要なのだ。
そして『辻精磁社』を象徴する青。青を描くのは呉須(ごす)と呼ばれる絵の具。天然素材は非常に手に入りにくくなってしまったが、かつての色を再現するためにこちらでは希少な天然素材を混ぜて色を出しているという。
佐賀県 「辻精磁社」磁器 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
「上絵の赤や緑は何百年かすると消えてしまいます。しかし釉薬の下に描く青は、この先もずっと残ります。だからこの青には資料としての重要性もあるのです」。
何百年よりももっと先の未来。たとえば器に描かれた植物が絶滅してしまおうとも、この青は消えることがない。さらに言うなら、たとえ人類が絶滅しようとも。それはいうなれば、悠久の青だ。
佐賀県 伝統的な絵柄の「辻精磁社」の磁器 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
工房から戻ると、今度は極真焼という磁器を見せてもらった。これは200年以上前の辻氏の先祖が考案した『辻精磁社』だけの技術。周囲を磁器で密閉して中身を蒸し焼きにすることで均一に熱が入り、より滑らかな磁器になるという。密閉するための容器は、焼き上がったら割るためだけの磁器。だが、熱を入れた際の収縮率が中身と同じになるように、同じ素材で作られる必要がある。つまり本命の中身と同様の最高峰の素材だ。採算、効率を度外視した、美しさだけの追求。これもまた、失われてはならない伝統だ。
佐賀県 蒸し焼きにして作られた「極真焼」の磁器 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
それから少し辻氏自身についても伺った。 美大で彫刻を学び、金属工芸のアトリエなどで働いた辻氏は、ものづくりへの興味が人一倍強かった。30歳で家業に入った直後は、伝統とは離れた磁器作りにも挑戦していたという。
「父がいたから、自由にやれたのだと思います。今、自分が父親になってみて、あのときの父の気持ちがわかるようになった気がします」。
そう話す辻氏。だからあのときの父と同様に、自分の子供達には好きなことをやって欲しいと思っているという。
しかし私は、きっと辻家の幼子たちは、たとえ回り道をしようとも、この家に戻ってくるような気がしていた。それは教育ではなく、環境か、あるいは血の中の何かのために。この家に受け継がれる悠久の青のために。
守るという生き方を選んだ父の背中は、それほどに大きい。
佐賀県 有田焼 工房「辻精磁社」代表の辻氏 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
佐賀県 「辻精磁社」工房内にある磁器 | SUBARU グランドツーリングNIPPON

DATA

辻精磁社
住所:佐賀県西松浦郡有田町上幸平1-9-8
電話:0955-42-2411   
URL:https://tsujiseijisha.jp/
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