拠点を持たぬ、さすらいの出張料理人。
自在に生み出す唯一無二の美味が私に伝えたのは
広島の旬と、記憶に残る体験としての晩餐。

2022.05.27 | #35 Hiroshima Touring /Day7:EAT「出張料理人カルロス・夜明けのジョニー農園」
その日の宿は、東広島・大芝島にある一棟貸しのヴィラだった。
大芝島は、周囲7km、人口100人の小さな島。噂によれば島内には飲料の自動販売機が2カ所あるだけという。もちろんレストランも商店もない。夕食は食材を持参して自炊するか、車で市街地まで出かけるか。あるいは宅配という手もある。あれこれ悩んでいたとき、地元の知人から少し変わった情報をもらった。
「広島に、地元で有名な出張料理人がいる」
すぐにその料理人とコンタクトをとってみた。予算や好みを聞いて旬の食材を集め、依頼者の家や指定場所まで出向き、オーダーメイドで料理するという。話をしているうちに「この人の料理が食べてみたい」と思った。その料理人は、“カルロス”と名乗った。
広島県 出張料理人カルロスさん | SUBARU グランドツーリングNIPPON
カルロス氏の話でもっとも私の興味を惹いたのは「カルソッツ」なる言葉だった。これはスペイン・カタルーニャ州の名物で、長ネギのように細長いタマネギのこと。これを直火で真っ黒になるまで焼いて、皮を剥いてディップにつけて味わう。家庭料理ではなく、BBQや祭りで味わうのが本場流。カルロス氏は、このカルソッツを、日本に広めたいのだという。しかし日本にはこの品種は無い。だから広島の生産者に依頼し、日本流のカルソッツを生産してもらっているのだとか。
私は、その生産の現場も見てみたくなった。
そして依頼日当日の仕入れに同行させてもらうことにした。待ち合わせに指定されたのは、東広島市の里山にある「夜明けのジョニー農園」という一風変わった名の農園だった。
農園では“ジョニー”と名乗る農園主が出迎えてくれた。カルロス氏も到着した。“ジョニーとカルロス”が語り合っているが、ここは広島の農園だ。そして二人とも純粋な日本人だ。 だが、二人がやろうとしていることは、これまでの日本の農業や飲食業の枠には収まらないことだと思った。だから本名も伺ったが、ジョニーとカルロスと呼ぶことが、二人への敬意になるような気がした。
広島県 東広島市の田畑を走るレヴォーグ | SUBARU グランドツーリングNIPPON
広島県 出張料理人カルロスさんと仕入れ先の「夜明けのジョニー農園」の農園主ジョニーさん | SUBARU グランドツーリングNIPPON
ジョニー氏はこの農園で、カルソッツをつくっている。品種は、スタンダードな日本のタマネギだ。それを植え付け、収穫し、その収穫したものを再び植え付ける。するとタマネギは地中で分球し、長ネギのように細長く育つ。
「いろいろ考えたけど、これしか方法がなかった」
とジョニー氏。前例がなく、すべてはジョニー氏の試行錯誤の結果だ。そしてこの方法が完璧にはまった。それは、本場カタルーニャでカルソッツの魅力にはまったカルロス氏が「本場よりも旨い」と言い切るほど。
こうして育った和製カルソッツを用いて、カルロス氏は広島でイベントを開いている。焼きたてのカルソッツを野外で焼いて、ワイルドに味わうそのイベントは毎回大盛況だという。きっと日本におけるカルソッツの知名度は、広島県が群を抜いて高いだろう。この個性的で、情熱的な二人がタッグを組んでいるのだ。これからも広島では、二人を発信源とする美味が広がっていくはずだ。
広島県 「夜明けのジョニー農園」で育てるカルソッツ(タマネギ) | SUBARU グランドツーリングNIPPON
広島県 「夜明けのジョニー農園」で育てるカルソッツ(タマネギ) | SUBARU グランドツーリングNIPPON
ちなみにジョニー氏も元は料理人。それだけに野菜づくりでもっとも大切にするのは「おいしいこと」だという。
「“おいしい”を通して、人も地球も良くなっていけば良いな」
ジョニー氏はそう言った。ロックンロールな出で立ちで畑に立ち、土と向き合う。誰かが踏み固めた道ではなく、自分が信じた道を胸を張って突き進む。ロックとは音楽のジャンルではなく、生き方のことなのだという。だから「今は本当に楽しい」と気持ちよく笑うジョニー氏の姿は、誰よりもロックだった。
広島県 「夜明けのジョニー農園」ジョニーさん | SUBARU グランドツーリングNIPPON
カルロス氏は時期も終わりに近かったカルソッツと、いくつかの野菜、それに採れたての卵を仕入れて農場を後にした。そして本日の舞台である、瀬戸内の離島のヴィラに到着した。
到着するやいなや、すぐに料理に取り掛かるカルロス氏。それは見惚れるような手際だった。持参した器具と、現地の器具を無駄なく使う。初見の厨房でも、まるで戸惑う様子はない。
「もっと厳しい現場はいくらでもありましたから」
そんな言葉が頼もしい。完成を待つ時間も楽しかった。目の前の厨房で調理しているため、いくらでも話を聞くことができたから。
「なぜ出張料理人なんですか?」
私はもっとも気になっていたことを尋ねる。その手際を見ていると、レストランを構えて人気を集めることだって簡単そうだ。だがカルロス氏は店はおろか、ホームページも名刺さえも持たない。
「自由な身でいることで、いろいろな人、いろいろな食材に出会いたいんです」
カルロス氏の答えはシンプルだった。
「旬という時間軸が失われつつある現代で、その季節を楽しみに待つような料理をつくり続けたい。そのために何ができるか考えてみると、料理の過程やストーリーを伝え、体験として愉しんでもらうことが一番だと思いました」
個性的なファッションに身を包み、フランクな物腰のカルロス氏の、揺るぎない哲学だった。
広島県 ヴィラで料理をする出張料理人カルロスさん | SUBARU グランドツーリングNIPPON
話しながらも調理は続き、やがて本日のディナーが完成した。
ジョニー農園のニンジンとミカンのマスタードソース和え、オリーブのソースを合わせた広島の鯛、蒸し鶏にはカルソッツの青い部分とジョニー農園の芽ニンニク。どれも直感的に「旨い!」と思う。子供が食べても、笑顔になって、おかわりを欲しがるような味だった。
肉料理は柑橘系のタレに漬け込んでからオーブンでじっくりと焼き上げた豚塊肉。里芋と牡蠣と芽キャベツとジャコのアヒージョは、汁まで飲み干したくなった。炊きたてのジョニー農園の米は、新鮮な卵と塩で卵かけご飯に。
広島県 蒸し鶏にはカルソッツとジョニー農園の芽ニンニク | SUBARU グランドツーリングNIPPON
広島県 里芋と牡蠣と芽キャベツとジャコのアヒージョ | SUBARU グランドツーリングNIPPON
広島県 豚塊肉を切る様子 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
仕上げは、やはりカルソッツだ。網の上で真っ黒になるまで焼いたカルソッツ。新聞紙に包んでしばし蒸らした後、黒い部分を手で掴んで引っ張ると、つるりと皮が剥ける。ロメスコソースやアリオリソースにつけたら顔の上まで持ち上げて、下からかぶりつくのが正しい食べ方。
教えられたとおりに、カルソッツにかぶりつく。熱い汁が口を満たす。甘みが広がる。ネギの風味と柔らかい甘みがソースと見事に絡み合う。
最高においしい。カルロス氏が焼き上がったカルソッツを再び手渡してくれる。皮を剥き、ソースをつけて、かぶりつく。この一連の動作も愉しい。バルセロナではカルソッツの祭りがあるというが、確かにこれはお祭りだ。
広島県 焦げ目のついたカルソッツ | SUBARU グランドツーリングNIPPON
広島県 焦げ目のついた皮を剥いたカルソッツ | SUBARU グランドツーリングNIPPON
私は、カルソッツを5本も食べてしまった。肉も魚も野菜も、卵かけご飯まで食べて、動けないほど満腹だ。だが顔には自然と笑顔が浮かんだ。おいしかった。そして愉しかった。今日の晩餐はただ料理を食べるだけの食事ではなく、食材や調理法の背後にある物語まで追うような体験だった。知らなかった広島の食材に出合い、知らなかった異国の文化を知り、そしてそんな素敵な時間を届ける出張料理人の存在を知った。
波音が耳に優しかった。ここはレストランではなく、今宵の宿だ。帰宅する必要もなく、このままベッドに潜り込むことだってできる。だがもう少しここに座っていよう。この心地よい満腹感に浸りながら、この特別な夜の余韻を噛みしめる時間は、カルロス氏が用意した最高のデザートなのかもしれない。
ロックな生産者ジョニーと、さすらいの料理人カルロス。たまたま耳にした噂の糸をたどり実現した今日のディナー。それはレストランを予約して訪れるのとは違う、偶然に支えられたひとときだった。だからこそすべての料理、すべての瞬間が、これほど記憶に刻まれているのだろう。
広島県 ヴィラの縁側のディナーテーブル | SUBARU グランドツーリングNIPPON

DATA

夜明けのジョニー農園
住所:広島県東広島市志和町志和堀4440
URL:https://johnnyfarm.jimdofree.com/
出張料理人・カルロス
URL:https://www.instagram.com/sundayscarlos/
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