自転車の聖地・しまなみ海道。
海を眺め、山道を抜けるサイクリングで知った
この地がサイクリストに愛される理由。

2022.05.20 | #32 Hiroshima Touring /Day4:EXPERIENCE「自転車神社〜因島グラベルロードコース」
広島県の尾道市と愛媛県の今治市を結ぶ瀬戸内しまなみ海道は、日本を代表する自転車の聖地だ。海道に整備されたサイクリングロードは、日本で初めて開通した海峡を横断する自転車道。全長70kmのその道は、美しい景色と穏やかな気候でサイクリストを魅了する。
調べるほどに、それは魅力的に思えた。車に乗って旅をする私も行ってみたくなるほどに。速度が変われば、見える景色も変わる。きっとドライバーズシートとは異なる絶景が目を愉しませてくれるのだろう。
さらに調べてみると、近隣のあちこちにレンタルサイクルがあり、車で訪れても十分に満喫できるらしい。
そこで気になるワードが目に入った。それは因島の「自転車神社」。日本で唯一の、自転車旅の安全を祈願する神社だという。境内にもレンタルサイクルがあり、神社の周囲には砂利道と山道と舗装路で構成され、市街地とアップダウンのある山道を抜けるサイクリングコースが整備されているという。そこには未舗装の厳しい山道を行くグラベルコースも含まれている。
広島県 瀬戸内海と佇むレヴォーグ(クリスタルホワイトパール) | SUBARU グランドツーリングNIPPON
目的地は決まった。自転車神社で参拝し、自転車を借り、グラベルコースを巡ってみよう。神社に予約を入れてみる。グラベルコースが初めてである旨を伝えると、ガイドの方を呼んで頂けるという。こうして予定はどんどん肉付けされていった。
当日、車を走らせて尾道から因島を目指す。天気は晴れ。窓を開けて島を走るだけで、すでにこの上ない爽快感に包まれる。潮の香りを含む風は、爽やかに頬をなでる。日差しはまぶしく、海の青をいっそう際立たせる。ここに来るまで自転車に想いを馳せていたからか、エンジンの力強い加速がいつもより頼もしく感じられた。ドライブはいつも私をワクワクさせてくれるが、この後、自転車に乗り換えるという予定があるだけでまるで愉しみが倍になったよう、今日の道はひときわ心が踊った。
因島の島内を走り抜け、私は自転車神社に到着した。
正式名称は大山神社。宝亀4年(773年)の創建。京都に平安京ができる以前から、この地を見守り続けた古社。渡しの神様として交通の安全を祈願していたことから、しまなみ海道で自転車が盛んになるにつれて、自然と自転車旅の安全も祈願するようになったのだという。
教えてくれたのは宮司の巻幡俊氏。由緒ある神社の宮司らしく重々しい存在感があるが、一方で明るく親しみやすい人物だった。
「自転車を境内まで運べたり、自転車の祈願をする神社は少なかったのですが、うちはウェルカム」
にこやかに話す巻幡氏。夏場には冷たく、冬場には温かいおしぼりを振る舞ったり、自転車用の架台を整備したりと、サイクリストへの心配りを続けるうちに、いつしか大山神社はサイクリストたちの聖地となっていった。旅の安全のご利益もさることながら、この宮司の人柄こそが、自転車神社誕生の原動力になっているようだ。
2019年に、しまなみ海道が“世界七大サイクルロード”のひとつに認定されると、世界中からサイクリストが訪れるようになった。そこで、サイクリングコースだけでなく、島内の名所や商店にも目を向けてもらえるようグラベルコースの整備に踏み切ったのだという。
広島県 因島「自転車神社」の宮司 巻幡俊氏と巫女さん | SUBARU グランドツーリングNIPPON
じきに、本日のガイドも到着した。宮口直之氏というその人は、広島を拠点に国内最高峰のプロツアーにも参戦するプロサイクリストだった。グラベルコースの設計や整備にも協力したという。
さっそく境内で自転車を借り、宮口氏とともにコースに走り出す。宮口氏の勧めで、借りる自転車は電動アシスト付きにした。
広島県 しまなみ海道のガイド兼プロサイクリストの宮口直之氏 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
神社を起点に、商店街方面へ舗装された道を進む。走り出してすぐに、ここがサイクリングの聖地といわれる理由が見えてきた。
車は自転車と共存して、安全に走っている。多くの商店には自転車の架台が用意され、気軽に駐輪することができる。そしてあちこちで、地元住民からあたたかい声がかけられる。「がんばってね」「写真撮ろうか?」「みかん食べていきな」短い会話だが、そんな触れ合いが何よりもうれしい。
商店街の鮮魚店「一色鮮魚店」で見つけたタチウオのフライのバーガーを買って、コースに戻る。宮口氏によればこのコースの先に見晴らしの良いベンチがあるという。そこで食べれば、おいしさもひとしおだろう。
都市部にいると自転車は、ときに邪魔者扱いさえもされてしまうような存在だ。しかしここでは、自転車が大切にされている印象を受ける。
広島県 「一色鮮魚店」外観 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
広島県 「一色鮮魚店」タチウオのフライ| SUBARU グランドツーリングNIPPON
やがてコースは上り坂に差し掛かる。電動アシストがあっても息が切れ、太ももが震えてくるような急な坂だ。宮口氏はアシストのない自転車でグイグイと登っていく。その背中を見失わぬよう、汗だくで自転車のペダルを漕ぐ。
額から流れる汗があごの先から滴るような坂道を、歯を食いしばりながらしばし走り続ける。
「ここが頂上です。良い景色でしょう?」
宮口氏に言われ見てみると、木々の間から瀬戸内海を見渡せた。ベンチに腰掛け、休憩がてら先程のバーガーを頬張る。思った通り、最高の味だ。食べながら宮口氏にこの先のコースについて尋ねる。
「ここまでは序の口です。この先はアップダウンのある山道。危なそうだと思ったら無理せずに降りてくださいね」
広島県 山の頂上から見える瀬戸内海と「一色鮮魚店」タチウオのフライバーガー | SUBARU グランドツーリングNIPPON
そんな言葉で不安に駆られていると「本当の難所は2箇所くらい。あとは大丈夫だと思います」と宮口氏。もうここまで来たら行くしかない。私は気持ちを引き締め、再び自転車にまたがる。
宮口氏の言葉通り、そこからは険しい道だった。谷のような急な下り坂がある。怖気づいてブレーキを強く握ると、路面が砂利のため車体が横滑りしてしまう。道幅はせいぜい1〜2m程度だ。一瞬も気を抜けず、ハンドルと体重移動に集中する。気を抜けば自転車とともに斜面を滑り落ちてしまうだろう。集中力が増し、視界がクリアになる。アドレナリンが分泌され、ハイになる感覚。心の底から沸き上がる感情。スリル。
ジェットコースターに乗っている感覚に近い。だが自分で操作している自転車は、進むのも、諦めて引き返すのも自分次第だ。険しい山道は緊張の連続だ。だが、もう少し進みたい。走りきった後の気分も味わいたい。この先の景色も見てみたい。なんとしても走り切ろう。そう決意すると、さらに集中力が増す。
気づくと道は再び舗装路に変わっていた。山道は抜けたらしい。ほっと息をつく。肩の力が抜ける。そしていまさら愉しさが湧き上がってきた。時間差の興奮だ。
「どうでした?」
「もう一周したいくらいです」
宮口氏に問われて答えた言葉は、半分は本心だ。だがもう半分は強がりだ。足も肩も腕も、すっかり疲れ切っていた。
クールダウンをしながら宮口氏の後ろを走る。宮口氏は常に私を気にかけつつ走る。曲がるときは手信号、自動車や歩行者とは譲り合い。宮口氏は強靭な脚力のみならず、その美しいマナーでもプロフェッショナルだった。私は、この日のサイクリングがいつまでも心に残った。
神社に戻り自転車を返却し、旅の安全を見守ってくれた神様と宮司にお礼を言う。心地良い疲れと充実感が体を満たしていた。私は境内のベンチで汗を拭きながら、この地が自転車の聖地といわれる理由をはっきりと理解していた。
広島県 瀬戸内海の島々とレヴォーグ(クリスタルホワイトパール) | SUBARU グランドツーリングNIPPON

DATA

大山神社(自転車神社)
住所:広島県尾道市因島土生町1424-2
電話:0845-22-0827
URL:https://ooyamajinja.net/
一色鮮魚店
住所:広島県尾道市土生町1897-6
電話:0845-22-0115
URL:http://isshiki.sun.bindcloud.jp/
宮口直之(eNShare Racing Team)
URL:https://enshare.jp/about/
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