静岡の片隅で出合った
軽く、温かく、柔らかい手編みニット。
変化する時代に改めて思う、手仕事の価値。

レヴォーグで旅する静岡県の旅

2022.06.10 | #38 Shizuoka Touring /Day3:EXPERIENCE「AND WOOL」

コロナ禍において、私の価値観は変化した。
走り続けてきた人生を、ふと立ち止まって見つめた数年。そこで人生の意味や時間の使い方を、改めて考えたのかもしれない。
モノに対しての考え方もそうだ。私はこれまで以上に、モノの価値、そこに込められた想いや、その背景に潜む物語に興味を向け始めた。
そんなあるとき、私は一枚のニットに出合った。
それはシンプルでありながら美しく、軽く、そして驚くほど柔らかかった。まるで作り手の気持ちが伝わってくるように思えた。タグには「AND WOOL」とあった。調べてみるとショップ兼アトリエは、静岡県島田市にあった。今回の旅の目的地を、静岡に決めた理由のひとつだ。
豊かな水を湛える大井川のほど近く、広大な茶畑の中を走り抜けた先に、そのショップはあった。豊かな自然の中にあってその建物は、都会的に洗練された雰囲気と、素朴で温かみある雰囲気の間で、静かに存在していた。
静岡県 茶畑を走るレヴォーグ | SUBARU グランドツーリングNIPPON
静岡県 木々の間から見えるAND WOOL 外観 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
車を停めて、店内に入る。そこには穏やかな空気が流れていた。
ゆったりと余裕を持って陳列された洋服たちは、あのときのニットと同じように、作り手の気持ちがこもっているように思えた。
「それは手編みのニットです。昔ながらの手編み機を使って編んでいるんですよ」
店内を眺めていると、ひとりの男性がそう説明してくれた。
訪ねてみると彼がブランドのディレクターである村松啓市氏だった。
“手編み機”という、矛盾を含んだような言葉に聞き覚えがなく、詳しく尋ねてみる。それは、昔はどの家庭にもあったような、シンプルな機械だという。電力を使わず、鍵盤のように細かく編み棒が配置された本体の上を、ハンドルを左右に動かすことで毛糸が編まれていく。言葉だけでは実像が掴めないでいると、実物を見せてもらえることになった。
ショップからガラス一枚挟んだ先が工房になっていた。ここでは手編みのワークショップなども行われているという。
静岡県 AND WOOL 内観 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
静岡県 AND WOOLのニットとストール | SUBARU グランドツーリングNIPPON
見せてもらって、ようやく理解ができた。
同時に、私がこのブランドに感じていた温かみの理由もわかってきた。
それは、機械でありながら、明らかに人の手による作業だった。昔の機織りのように、一列ずつ地道に、丁寧に編んでいく。
「1980年代まではどこでも見られるものでした。しかし90年代に入り、作るより買う方が安い時代になると、手編み機は姿を消しました。ところがそれがここ数年、改めて評価され始めています。手仕事の価値が改めて見直されてきているのです」
村松氏はそう言った。
静岡県 手編み機でニットを編むAND WOOLのスタッフ | SUBARU グランドツーリングNIPPON
静岡県 上から見たAND WOOLの手編み機 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
静岡県 横から見たAND WOOLの手編み機 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
聞けば村松氏は、文化服装学院でニットデザインを学び、卒業後は特待生としてイタリアへ留学、帰国後すぐに東京コレクションに参加し続けたトップデザイナー。22歳ではじめた洋服ブランドは高い評価を得て、渋谷にショップも出店。ファッションデザイナーとしてのキャリアを順当に重ねてきた。しかし最前線を走り続けたからこそ、感じることもあった。
「ファッションの世界では手仕事の価値が認められないばかりか、低く見られることさえある。しかしファーマーズマーケットの野菜のように、生産者の顔が見えて、制作の経緯が見えれば洋服だって愛着が湧き、長く着てもらえるはず」
そんな思いのもと、洋服ブランドと並行してニットの制作も続けてきたのだという。
静岡県 AND WOOL ディレクター 村松氏 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
「なぜ静岡に?」
「東京に居た頃は、“本当にやりたかったことはこれなのか”、と自問自答していました。震災以降そんな思いが強まり、2011年に故郷である静岡に移りました」
そう話す村松氏の顔は、晴れやかに見えた。
「でも根っこの部分は変わりません。僕がやるのは、ものづくりからデザインしていくこと。こういう素材で、こういう工程で作るから、こういう形になる。いわば必然としてのデザインです」
いま村松氏は、北海道の畜産家や、国内の工場など有志たちと協力して、国産毛糸から作るセーターを考案している。実現すれば、30 年ぶりとなる純国産ニットとなるという。
それはやがて流通や販売も含めて、ひとつの大きな流れを生み出すのかもしれない。静岡の小さな工房で私が出合ったのは、大きなビジョンを持ちながら、目の前の手仕事を大切にする、素晴らしい価値観だった。未来を見つめ、同時に自らの手を見つめる。愛着を持って長く愛用できるモノを真摯に、丁寧につくり出す。プロダクトにこめられたそんな想いを、私はニットの柔らかい手触りを通して、たしかに感じ取った。

DATA

AND WOOL
住所:静岡県島田市湯日1124-1
電話:0547-54-4492
URL:https://www.andwool.com/
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