50mの高さからの初フライト。
ひとりきりで空を飛んだその日は、
生涯忘れぬ私の記念日となった。

レヴォーグで旅する愛媛県の旅

2022.08.05 | #52 Ehime Touring /Day2:EXPERIENCE「霧の高原」「パラグライダー」

愛媛県の写真を見ると、いつも海の青さが目を引いた。
季節は夏。海を存分に愉しめる季節だ。
私は愛媛を旅するにあたり、どうすればこの海をより満喫できるか考えた。そしてひとつのアイデアをひらめいた。
平面的に移動していろいろな海を見るのではなく、立体的に、さまざまな高さから海を眺めてみたらどうだろうか、と。
海沿いを走るドライブ、水上の船旅、水中のアクティビティ。さらにもうひとつ、空中から海を望む体験、パラグライダーだ。
予約したのは、愛媛県四国中央市にある霧の高原でのパラグライダー1日体験だ。
四国中央市はその名の通り、愛媛、香川、徳島、高知の4県の県境が交わる付近。標高1,000mを越えるこの高原は各地から愛好家が集まるパラグライダーの聖地。天気が良ければ、はるか眼下に瀬戸内海を眺めながら空中散歩が愉しめるという。
高速道路を降りて、山道へ向けてハンドルを切る。
道は徐々に細くなり、道中にまばらに見えていた民家もやがてまったくなくなった。道はずっと上り坂で、ぐんぐんと標高が上がる。車内の温度計を見ると街では33℃だった気温が、23℃まで下がっていた。エアコンを消して窓を開ける。湿度の低い高原の空気が流れ込んでくる。
愛媛県 塩塚高原の山道を走るレヴォーグ | SUBARU グランドツーリングNIPPON
到着した霧の高原には「塩塚スカイスポーツ」のインストラクター・鈴木邦雄さんと仲間たちが待っていた。
鈴木さんによれば、体験スクールではまず地上で2時間ほど動作の確認や練習をした後、離陸地点まで移動してひとりで飛ぶのだという。
「大丈夫、簡単だよ」
「70歳を越えてから始めた人もいるんだよ」
メンバーたちがそんな言葉で緊張をほぐしてくれる。そうして地上での講習がはじまった。
愛媛県 塩塚高原から見渡す広大な山々の景色 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
パラグライダーの離陸の原動力、飛行機のエンジンに当たる部分は脚。風に向かって斜面を走る。グライダーが風を受けて重くなっても、とにかく走り続ける。風を十分に捉えたら、手に持ったライザーと呼ばれるラインををグッと引く。するとグライダーが真上に上がり、正面からの風が上に向かう揚力に変わるのだ。
陸上で、何度も練習をする。汗だくになり、転び、起き上がってまた走る。鈴木さんの顔は真剣だ。これがアトラクションではなく、危険を伴うスポーツであることを改めて感じた。
愛媛県 「塩塚スカイスポーツ」のインストラクター・鈴木邦雄さん | SUBARU グランドツーリングNIPPON
愛媛県 「塩塚スカイスポーツ」パラグライダーの様子 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
練習を終え、いよいよ離陸地点へ移動する。高さは50mほど。装着した無線機を慎重にチェックする。上空では無線機から聞こえる鈴木さんの声だけが頼りだ。
スタート地点に立ち、風を待つ。
斜面を風が吹き上がってくる。だが、まだ弱い。集中して風を探る。これほど真剣に風を感じたのは、生まれてはじめてだった。
遠くに見える吹き流しが、ふわりと動いた。しばし遅れて、頬に当たる風。
愛媛県 塩塚高原の斜面 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
「よし、行こう!」
そんな声に促されて、斜面を駆ける。
「もっと走って、もっと!」
言われるまま、とにかく必死で足を動かす。グライダーが広って風をはらみグッと重くなる。それでも負けじと足を動かす。
ふと、体が軽くなる。足が2〜3歩、空を切った。
気づくと体が宙に浮いていた。
だが、景色を愉しむ余裕はない。思っていた以上に速度が速い。轟々と風を切る音が響くなか、無線機の声に耳を澄ます。
「右手を肩まで引いて」
との指示に従うと、ゆっくりと右に旋回する。同時に感じる落下感。ぐんぐん地面が近づいていくる感覚。改めて、足の下に何もない不安がよぎる。
「まだ我慢、まだそのまま」
その言葉を信じて必死に堪える。
「はい右手を戻して」
言われて手を戻すと、再びふわりと浮遊感がある。
とにかく夢中だった。
着地地点が近づいてくる。無線の声に、少し反応が遅れた。体は着地地点を通り過ぎ、草むらに突っ込んだ。
しばし呆然として、起き上がれなかった。大地に横たわり空を見上げながら、いまの数十秒のフライトを思い返す。空を飛んだ。その事実を思い返す。その体験はスリルというよりも、むしろ恐怖に近かったかもしれない。
愛媛県 「塩塚スカイスポーツ」パラグライダーの様子 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
愛媛県 塩塚高原から見た青空 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
「もう一本行きましょう!」
鈴木さんの声。
正直に言うと、少し気が進まなかった。まだ気持ちの整理がつかない。
「大丈夫、次はもっとうまく行きますよ」
そんな言葉に気持ちを奮い立たせ、再び離陸地点に戻り、再び風を待つ。
「よし行こう」の声を合図に、走り出すのは先程と同じ。風を捉え、空中に飛び出すのも同様。だが今度は、先程よりも状況が掴めていた。
子供の頃、はじめて自転車に乗れたときのことを思い出す。膝を擦りむきながら何度も転んで、しかし一度乗れてしまえば、なぜ乗れなかったのかさえわからなくなる、あの感覚。
改めて空中からの景色を眺めた。霞がかかっていて、残念ながら瀬戸内海は見通せなかった。だが山々の緑と空の青、遠くに小さく見える街がすべて目に焼き付いた。いまさらながら空を飛んでいるという感動が沸き起こる。
それは体が空気とひとつになったかのような、この上ない開放感だった。このままどこへでも行けてしまうかのような、自由な気分だった。
無線の声に冷静に従い、尻もちもつかずに着地した。いまの私は感動の余韻に浸っていた。空から海を見る、という当初の目的は果たせなかったが、心から満足できるひとときだった。
愛媛県 塩塚高原 パラグライダーの様子 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
愛媛県 塩塚高原 パラグライダーの様子 | SUBARU グランドツーリングNIPPON
聞けば鈴木さんと「塩塚スカイスポーツ」の仲間たちは、地域の共有財産としてのこの素晴らしい草原を残すために、ゴミ拾いをしながらパラグライダーを広めているのだという。先程、話に出てきた「70歳を過ぎてから初フライトをした」という方とも話ができた。
「足が動く限り飛び続けますよ」
そう笑う声に、私もつられて笑った。
愛媛県 「塩塚スカイスポーツ」のスタッフ | SUBARU グランドツーリングNIPPON

DATA

塩塚スカイスポーツ
URL:https://www.awanavi.jp/spot/20661.html
霧の高原
URL:https://www.kirinomori.co.jp/kogen/
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